雨
ぼくは何の気なしにそんな光景を見ていたんだ。
辺りは大雨の轟音で却って静かに思えて、漂う煙と落ちる雨で時間の感覚もすっかりなくなっていた。
視界だけがはっきりしていて、大体が暗闇なのに、隣で崩れる砂だとか、水分に膨らんで重く固まった砂だとかがはっきり見えていた。
だからじゃないけど、ぼくは、跪いたおじさんの肩を叩くのに、随分と時間が掛かってしまったんだ。
「おじさん、おじさん・・・。綺麗だよ?」
ぼくはきっと、睫毛に乗っかった砂なんかのことはさっぱり忘れて、口をぽかんと半開きにしたりなんかして、それを見上げていたんだ。
「見たほうがいいよ」
なんとも不思議な光が、辺り一面を照らし始めていたんだ。
まるで、イチゴ水にミルクを混ぜたような、なのにひどく純粋で、透明な、なんとも不思議な、優しい光だった。
幾重にも重なった砂が剥がれた後に現れたのだから、天井の何処かに埋もれていたのだろう。
おじさんは辺りの明るさに、顔を上げ、やっぱり少しの間、光以外何にも感じなくなっていたみたいだった。
「・・・あれだ」
暫くするとジョルジュさんは目を剥いて、飛び出た咽喉仏を下したりなんかしてそういった。
そして
「助かる、おれは助かる・・・、助かるぞ!」
と奥底から何かが沸き起こって、びっくりするくらい力強く叫んだんだ。
「でも、どうやってあそこまでいくの?」
ぼくは遥か上方の発光体を見上げながら、ちょっとわくわくでそう聞いたんだけど、おじさんは答えを持っていなかった―――実際考えてもいなかったみたいだったな。
でも、今回ばかりはおじさんといえど、意気消沈しなかったんだ。
「見るんだ」
少し考えたおじさんの指は、いつの間にか塞がって逆にどろどろの砂が盛り上がって、もう跡形もなくなった穴のほうを挿していた。
不定期にぬれて固まった砂が天井から大量に吐き出されていたし、振動で崩れた砂も大量に流れ込んでいたから、気付いたらそうなっていたんだ。
「あそこを上れないものか?」
おじさんはそういったそばからすぐに底へ歩き出したんだ。
でもぼくはそれを必死で止めた。
だって、ぬれた泥の山は、マグマみたいにとめどなくグツグツいっていたんだから。
そんなところまともに上れるどころか、下手をすれば全身飲み込まれてしまうのが落ちだよ。
泥の山は、確かに盛り上がっていたけれど、中心はすぐに凹んで、穴が一向にお腹を満たしていないんだってことを物語っていたんだ。
山ができていたのは、その周辺の入りきらないところに、いわば、つっかえたからなんだ。
妄信的になったおじさんの力は、実際ぼくなんかが抑えられるようなものじゃなかったんだな―――過去にも例があるし。
でも、ぼくは必死で彼の腰を抱いて、引っこ抜く格好で戦ったよ。
雨が発光体の表面を通るんだろう、脈動のような水の陰がぼくらを不定期に伝った。
額の汗は、ひりついた砂に据われて、伝い垂れることはなかった。
例の振動がなくなっていると気付いたときだった、ちょっと気がそれて、謝っておじさんを捕まえていた手を離してしまった。
雨の音が、ぼくら二人に流れる時間を緩めているみたいだった。
ぼくは勢い余ってしりもちをついた。
おじさんは、膝を付いたものの、うまく体制を建て直し、泥山の天辺めがけて走り出した。
そのときだった。
泥山が吹き飛び、水が爆発的に噴出した。
水が、凄まじい勢いで発光体に手を伸ばそうとしていた。




