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その先

「・・・膝を抱えて、湖面に視線を落としてやがる。何を見ているのかは、わからんな」


ユダは瞬時に身を翻してその人のことを確かめた。


僕はしゃがんで出口の外を見上げてみたんだけど、どういうわけかそこにも威圧的な山腹や、山頂、それを隠す分厚い雲があった。


目下に広がる景色と何度も見合わせても、なんら変わっているところもなかった。


でも、一糸の乱れもなかったその風景がひとつの平べったい石っころなんかに完全に崩されたとき、ぼくは、このさかさまの正体に気づいたんだ。

 

「すごいよ、湖だったんだ。全然水面が動いていないもんだから、景色がすっかり写って傷んだね」


ぼくはすっかり興奮してそういったんだけど、すぐにユダに口を塞がれた。

 

「静かにするんだ。気付かれたらまずい」


そういって彼は湖面沿いの人のことを伺っているみたいだった。

 

「どうしてだい? ジョルジュおじさんのお家みたく、あっためてくれるかもしれないよ」

 

ぼくの問にジェラールはちょっぴり当惑した表情を見せた後、


「だからいけないんじゃないか」


と真顔で答えた。


「とにかく、どうにかしてあいつに気付かれずに、森に入るんだ。あそこにはいっちまえば、もう誰にも気付かれやしない」


ユダはそういうと、やっぱり慎重に外の気配を探ろうとした。


「誰に気付かれたらまずいんだい?」


そんなのんきな声でも、ジェラールたちの体を強張らせるには十分だった。


気付けば、ユダの直ぐ後ろに、ちょっと薄汚れた青年が立っていた。


湖の波紋は当になくなり、元の完璧な景色が水面に張り付いていた。


「ぼく達、もう長い間寝ずにここまでやってきたんだ」


みんなが固まっているもんだから、ぼくはそう切り出して、


「あそこの立派な小屋は、君の家なのかい?」


と訊ねた。


「ああ、俺の小屋だ。といっても、空き家を勝手に借りているだけだがな」


青年はちょっぴり投げやりで、草臥れた声で答えた。


「どうして煙なんかが出ているんだい?」


「ああ、もう直ぐ晩飯の時間なんでな。湯を沸かしているところだ何だ」


そんな何気ない彼の、晩飯って言う言葉に、ぼくのお腹は条件反射してしまった。


そしたら彼、笑って、


「お前、暫く何にも食っていないようだな」


なんて、豪快になるぼくのお腹に向かっていった。


それで、なんとなく顔を上げると、みんなに向かって、


「よかったら小屋で休んでいかないか」


といった。

 

みんなはまだ体が硬直して、青年の挙動に注意を払っているようだったんだけど、ぼくはすばやく彼の隣へ歩み寄り、みんなに必死で肯いて見せた―――よだれなんかたらしながらね。

 

「まだ湯を沸かしている最中だ。今からならお前らの分も作れるぞ」


というと青年は身を翻し、


「そこの厳ついの」


とジェラールを睨み、


「来たくないなら来なくていい。だが、あの森に入るのだけはよしたほうがいいぜ」


そういい、


「直ぐ近くの何処かに、俺たちを食いものにする獣がいるんだ」


なんてサラって言い放つと、


「人間の匂いをかぎつけて、今もきっとすぐ近くで身を潜めているに違いないぜ」


というと、一点鼻で笑ったりなんかして、


「ま」


なんて気楽な声を上げ、


「食うほうと食われるほう、どっちがお好みかってところだな」


って言いながら、一人背を向け、小屋のほうへ歩いていってしまった。


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