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月の満ち欠け

「ああ、ボスがほしいもの。それは、見たことも無いような赤い光を放つ、何か、だ」


不意に腰を屈めるとおじさんは、


「今がチャンスなんだ」


そういい、


「水位の低い今こそが、ボスがほしいものを見つける最大で、最後のチャンスなんだ」


といって、にごった水の中に手をいれ、弄った。

 

「最後の?」


ぼくはついそう聞いてしまったよ。

 

「・・・ああ」


おじさんはそれしか答えなかった代わりに、ポッケからありったけの紙幣を取り出してみせた。


「これがおれの有り金すべてだ」


紙幣は、ぼくの見た限り、もう二枚っきりだった。


「これがなくなり、足元見られて買わされた苦瓜が無くなる。その時が俺たちの最後だ」


そういったおじさんの頬は、始めて会ったときより数段こけてしまって、あの時感じた荒んだものも一緒に取り除かれた気がした。

 

「見つかるかな?」


ぼくは呆けていたのを取り繕って、おじさんの隣に腰を下ろしてそう訊いた。

 

「見つかるかな・・・」


ぼくはおじさんに、見つけるんだっていってほしかったんだ。


だから、


「見つけるよ」


って自信満々に言ってみせたりした。

 

暫く水たまりの中を弄ってみたけど、手に痞える物なんて何も無くって、赤だったり緑だったりする砂だか泥だかわからないものが、手のひらにへばりついただけだった。


ちょっと草臥れたもんだからぼくは顔を上げて、光の出所なんかを探してみたんだ。


でも、それはわかるようで、うまく隠れて見えなかった。

 

おじさんが身を翻すと、ぼくも腰を上げ、すり鉢坂を登った。

 

「ねえ、どうしてこの頃、月明かりしか差し込まなくなったんだろ」


空気穴のところにつくとぼくはそう聞いたんだ。おじさんは気付いているのかなって。

 

「それが・・・全くもって不可解なんだ。理由が思い浮かばん。この地域に太陽の日差しを遮れるものなど、何も無いはずだ」


おじさんはやっぱり気付いていたんだ。


「しかし俺たちはこの場所の外がどうなっているのか見たことが無い。もしかしたら、このピラミッドの直ぐ傍に何か他の巨大な建造物があって、丁度その陰になっている場合も考えられる」

 

「この近くには、光をさえぎるものなんて、ぁりませんぜ」


何時の間にからくだ口が立っていて、そう口を挟んだ。


確かに苦瓜が一つ転がっていたから、らくだ口は来ていたんだ。

 

「それなら何が起こっているんだ、外の世界では」

 

らくだ口の得意技の一つに、もったいぶるってのがあるんだけど、今度こそは本当に口をつぐんでいるみたいな感じが空気穴の外から伝わってきたんだ。


それで、ゆっくり空を仰いだ感じになると漸く一言、


「信じちゃもらえないんでしょうねぇ」


なんて伸びた声を上げてみせた。


「今はあんなにきれいなお月様が顔を出しているっていうのにねぇ」


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