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月の満ち欠け

あるような無いような振動は、あんまり長く続いたもんだから、何時からか余り気にならなくなっていたんだ。


でも、陽の光がさっぱり届かなくなっちゃったのは、やっぱり気になったんだよね。


だって、一層暗くなった空間の雰囲気が、おじさんに移ってしまっていたんだもの。


暗くなってよく見えないんだけど、おじさんが憔悴しているのは明らかだったんだ。


下手したら、そのまま闇の中に溶け込んでしまうんじゃないかって程にね。


それで、多分いつも見えないところでぼくを見つめている巨人さんと同じになっちゃうんじゃないかって、本気で心配したんだ。


巨人さん、きっと近くでぼくをじっと見詰めているんけど、こっちが話しかけても、全然返事を返してくれないんだ。

 

おじさんが抜け殻なんかになっていたから、ぼくは歩き回る自由を手に入れたんだ。


でも、行くところといえば、最下部の、あの小さな水溜りがいいところだったよ。

 

陽の光がとどかなくなっても、大体一日のサイクルはつかめていたんだ。


なぜって、どういうわけか夜になると決まって薄い月明かりが空間に差し込んできたからなんだな。


そんなときはひどく静かで、振動も確かに止んでいて、ぼくはお腹の底に光を溜め込んでいたりした。

 

「今日は随分ちいちゃいな」


珍しく降りてきたおじさんが、水溜りの傍に腰を下ろしていたぼくに声を掛けてきたんだ。

 

「段々小さくなってきているんだ。このまま、枯れちゃうのかな」


「いや、そうとも限らんぞ」


おじさんは無精ひげをさすりながら上を見上げ、


「月明かりが強くなっているしな」


なんて言った。

 

「月明かりが強くなると、水たまりは枯れないの?」

 

「こういう風な水溜りってのは、月の満ち欠けによって水位が変わったりするもんなんだよ」


おじさんは久しぶりにぼくを安心させるだけの微笑を向け、


「これを見ろよ」


と輝く布を手に掛け、


「月が満ちてきているんだ。そろそろ満月になるのかな、それとももう欠け始めているのかもしれない」


といった。


言った傍から、結局顔色を悪くした。


「ボスが死んでもほしいもの。なんだかわかったぞ」

 

ぼくはちょっとぎらぎらしている、月明かりに照らされたおじさんの瞳を除いて、


「ほんとに?」


なんて間抜けな声を上げちゃった。


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