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透明な壁

「漸く収まったか?」


ユダは頭を抑えながら、そういった。


その直後、ツェッペリンが吐いたんだ。

 

「申し訳ございません・・・。すぐに始末を」


彼は自分の吐いたものを―――と言っても殆ど粘々の液体だったけど―――見つめながらそう呟き、ためらいがちにそれに手を掛けようとした。

 

そうしたら、


「よい」


って一言だけラバがいった。


彼はツェッペリンに汚物の後始末をやらせる代わりに、通路の先に目をやり、恐らく、先導をするようにって合図を送ったんだ。

 

「待つんだ。どこから何が出てくるかわからんぞ」


ジェラールは体を起こすと、ぼくに謝らないのが当然みたいに、すぐに先頭に立ち、ツェッペリンを制した。

 

「出てくるものがあるのだとすれば、それは・・・蜘蛛なんでしょうな」


とツェッペリンがナプキンで口元を拭きふき言うと、

 

「どれだけでかいクモなんだろうな」


なんてユダが、冗談でもない口調で、通路の周りを見ながら言った。


通路の周りは一向に弱まっていない光があちこちに飛び交っていて、それが却って崖の周りの光景をぼく達から隠していた。


見えるものといえば、透明な通路の先にある、二つの松明だけだった。


「まるでおれ達がここに来るのを知っていたみたいだな」

 

「延々と燃える松明なのかもしれませんよ」


そういいながらツェッペリンはジェラールの横をすり抜け、松明によっていった。


松明は、普通の松明で、誰かが随分前に付けたもののようだった。

 

「ここを進めということか・・・」


ラバは二つの松明の間に横たわった闇に向かってそう発した。


通路は、そのまま洞窟に繋がっていたんだ。

 

「歓迎されているのだろうか」


ジェラールはそういって、深く思案しているみたいだった。

 

「とにかくここにはいないほうが身のためだぜ?」


ユダは薄気味悪い辺りを見上げたり、結局底の無かった谷の下方に目をやったりしてそういった。


「何時化け物が出てきても可笑しくない雰囲気だ」

 

「素直に進んでいいものか・・・」

 

「巣を張った横に巣穴を作る蜘蛛もいるときいたことがあります」

 

みんなちょっと考え込んじゃって、通路と洞窟の境目で、立ち往生していた。

 

「でも、もう後戻りはできないよ」


だからぼくはそういったんだ。


簡単に言ってしまったんだけど、言った後に本当にそうなんだと思えた。

 

「前に進むしかない。進むんだ」


ラバがそういって、ツェッペリンに再び目配せした。


ツェッペリンはそんな一言で、もう何も考えなくていいような、妙にすがすがしい顔をして、一心に携帯用の松明を作り上げた。

 

「進むしかできない・・・」


なんてジェラールは呟くと、


「そうだ、進むんだ」


なんて一転力強い声を上げ、ツェッペリンが作った松明を翳し、一歩、洞窟へ足を踏み入れた。


ぼくは、松明の明かりと影のいたずらで抽象画みたいになった彼の後に続いたんだ。


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