透明な壁
「・・・見ろ」
そういって、ラバが顎をしゃくった。
ぼくには目だけで上を見ろってサインを送ってきたんだ。
「横から見れば、下弦月・・・」
振動でたつのも面倒だったから、ぼくはそのまま腰を下ろして、坐ったまま真上を見上げた。
そしたら、みんなが一斉に小声で、だけど力強い声で、そういいながらこっちへ寄ってきたんだ。
振動でふらふらになっていたのに、わざわざね。
「下から見れば真新月・・・」
ジェラールはぼくの真横に顔を持ってくると、そう呟いた。
ぼくはどうやら間違えて、光を隠してしまったらしかった。
でも、どうだろう。
光はぼくらを照らす代わりに、不気味で分厚い、例の雲なんかへ一直線に進んでいって、まるでそれを支えているような、貫こうとしているような、確かな柱を立てた。
「上から見れば―――」
「満月なんじゃないかな」
ぼくはそういいながら、なんだか反射して、あちこちに散った光の先を眼で追ったんだ。
光は、ぼく達を包み込むように、空中に直線を引いていった。
谷の側面に当たった光も何故かうまく反射して、弱まらない確かな直線が、延々と谷底へと引かれていった。
「逃げるぞ! ここは危険だ!」
そういった傍からジェラールは通路を逆走しだした。
「無駄だ!」
ラバが叫んだところ、始めてみたよ。
「通路は水平になるまで、動きました。恐らく、既に通路の端は、あちら側とは繋がっていないでしょう。通路の初めの溝が、何よりの証拠です」
「それに、よく響くルーディーの声が聞こえなくなったものね」
「どれだけ離れているのか確かめてくる! 来た道には見えない鉱石の壁はないはずだ。もしかしたら飛び移れるかもしれん」
一旦立ち止まったジェラールは、やっぱりそう叫んで走り出した。
「ねえ、どうしてここは危険なの?」
「かかる獲物を待っている・・・。それが何なのかはわからんが、この振動だ。逃げられるもんなら逃げ出したいね」
振動は一層激しさをまし、ぼく達はまもなく、全員腰砕けになったんだ。
それはジェラールも同じだったんだけど、彼は無理やり体を動かして、とうとう通路の境目辺りまで戻っていた。でも底からはうずくまって動けなくなってしまったんだよ。
ぼくは当にお腹の感覚がなくなっていて、振動が頭の中まで揺らしたもんだから、ちょっとどうでもよくなって、向こう岸を見やったんだ。
―――その時だった。
不意に振動が止むと、なんとなく体が軽くなる感覚に囚われた。
「ああ」
なんて情けない声を上げると、
「ちきしょう! 落ちているぞ!」
ユダはそういって、掴むところなんてどこにも無い通路にへばりついた。




