透明な壁
「なんでこんなにも自由なのに、閉塞感なんかがまとわりつくんだろ」
ぼくらは実際、はたから見れば宙を浮いているように見えるはずなんだ。
だから両手広げて、盛んにターンなんかをしてみたんだけど、あんまり自由を感じられなかった。
だって、思いっきり伸びをしようとして手を天にかざすこともできなかったんだからね。
手はすぐに何かにさえぎられて、中途半端なところまでしか伸びなかったんだ。
ちょっと頭にきたんだけど、見えない岩に手をついたりなんかする面白さに気付いて、わざと手を付けながら進むようにしたんだ。
実はぼく、タップなんかを踏んでいたから、みんなからちょっぴり遅れを取っていたんだよ。
「飛べない距離ではないが・・・」
ジェラールが細長狐を見下ろしながら言った。
ぼくはターンして気付いたことがあるんだ。
どうやらぼくは最後尾にいたんじゃなくって、案外ぼくら以外にも橋を渡ろうとしているやつがいたってことがわかった。
そいつは、粉末が巻き上がるくらいの勢いで走ってきて、見る間にターンの途中のぼくのよこをすり抜けていった。
それでぼくに、
「一足先に向こうへいっているぜ」
って言い放つと、
「邪魔だ、どけ!」
なんて叫びながら、ジェラールたちの間をすり抜けた。
「おれ様の行く道は誰にも塞がせねェ!」
サルはきっとぼくらに気付かれないように、階段の橋に身を潜めていたんだ。
それで、十分な助走と共に、粉末の途切れを踏み切り代替わりに力いっぱい全身で飛び上がった。
「今までご苦労サンだったな!」
なんて飛びながら横を向いていったサルは、ちょっぴり得意だったんだ。
でも、ぼくは見ちゃったよ。
軽くため息をついたラバの顔を。
ジェラールのちょっと慌てて、サルを止められなかった顔を。
間も無くサルは、ほんの少しの間、空中で静止したんだ。
何か小さなものが巨大なものに当たるときに出る、ほんとにさっぱりしたあっけない音と共にね。
サルは横面に白目をむいて、万歳しながら、片足だけ妙に挙げたりした格好のまま、すぐに崖下へと落ちて言った。
「通路が途切れていても、その先に見えない壁があることなど、想像に難くないのだがな」
ラバはちょっと好奇な目で崖下を覗きながらそういった。
ぼくはターンしたとき、妙に引っかかった見えない天井の窪みに手を掛け、体重を預けながら落ちていくサルを見ていた。
サルは、見る間に闇に呑まれていってしまったんだ。
「どうしたものか。打つ手なしだぞ」
そうユダが言うと、
「まだ考える余地は残っている」
とラバが呟き、
「娘の唄の二番のことでございますね」
とツェッペリンが応じた。
そんなときだったな。
ちょっと退屈に鳴り出してきていたぼくは、月を探そうと上を見上げたんだ。
そしたらどうだろう。
月は、案外ぼくの手の中にあったんだ。
といっても、それは半分欠けた、綺麗だけど力ない感じの光だったんだ。
「二番の三節までを強引に数字に置き換えるなら、真新月が零、満月は十。下弦月は五・・・しかしどうして上限の月ではいけないのかはわかりませんな」
ぼくはその光をもっと確かなものにしたかったんだ
―――だってそうだろう?
ぼくは何時だってそれを追い求めてきたんだから、どんなに小さな光でも、光は光だよ。
だからじゃないけど、半分顔を出したお豆の皮を剥くみたいに、ぼくは指にかかったそれを、思いっきり前方へ押した。
「ちょっと待て、一番のことを考えれば、この場合の完全数は七だ。それなら、下弦月にも―――」
ジェラールの言葉が終わらないうちに、通路に振動が始まった。
ぼくは窪みを押し出した勢い余って、前に突っ伏してしまったんだ。
「今度は何だ?」
ユダは振動の発信源もわからないのに、鬱陶しげに空を見上げた。




