深い溝
「ルーディーは、ジェラールだけには嘘をつかないよ」
ぼくはちょっぴりむきになってそういった。
ジェラールは余りぼくの言葉を聴いていないらしいんだ。
それはラバも一緒で、なにやら外套の懐に忍ばせてあった子袋を取り出すと、
「・・・考えがある」
といい、
「下がっているんだ」
と誰にでもなく呟いた。
彼は、子袋の口紐を緩めると、中身を手に取るでもなく、勢いよく途切れた通路の先に振りまいたんだ。
するとどうだろう。
振り撒かれた何かの粉末は、全く風に吹かれないで、通路の空間に落ち着いた。
簡単に言えば、粉末が板状になって宙を浮いているように見えたんだけど、そんなに不安定でもなくて、きっと落ち着いているんだって感じがした。
「風が無いんだ」
そう、途切れた通路の先に手を出したながら言うと、ラバは当然のごとく粉末の敷物に足を乗っけたんだ。
驚いたね。
ぼくは、よくそんなことができるもんだって思ったよ。
「階段と同じ鉱石が使われているのだろう。もしかしたら、と思っただけだ」
そういって彼は隠さないで震えるツェッペリンの肩に手をやると、
「良くぞ無事であった」
なんていうと、粉末の上を歩き出したんだ。
そうだよ、下から突き上げる風も無いってことは、通路と、この見えない通路の間には、溝なんか無かったってことになる。
要するに、ラバが怒鳴らなくって、ツェッペリンが跳ね起きるタイミングがあと少し遅れていたら、彼は間違いなく、このわけもわからない鉱石の間に挟まれていたんだね。
それに、鉱石が透明なものだから、ぼくらは彼の変わり果てた姿なんかを見ることになっていただろう。
「ともあれ、これで前に進めるってわけだ」
ユダは頭に後ろ手を組みながら、そういい、足を踏み出した。
ラバは持っていた子袋をツェッペリンに預けると、先頭に立たせ、中身を先へ先へと振りまかせた。
ぼくはなんとなくやりきれなくって、中断していたタップを再開したんだ。
粉末は振りまかれても、所々に粗があったり、なんとなく螺旋状になっていたりするところもあったりで、まるで銀河みたいだなって。
自分は今、銀河を渡っているんだ、なんて思ったりしちゃって、ぼくの足裁きも、軽やかになるばかりなんだよ。
「どういうことだ?」
ジェラールが言った。
「・・・また通路が途切れて閉まったようです」
ツェッペリンはいくら振りまいても落ち着かない粉末が風に攫われていった先を目で追いながらそういった。
「ねえラバ。アレをご覧よ」
ぼくが指差した先では、やたら細長い狐が二匹、並んでこっちを見つめていたんだ。
「置物でございますね」
二匹は全く動かなかったから、ツェッペリンはそういったんだ。
確かに、これまた細長い目はきらきら煌いて、宝石でも埋め込んであるみたいだった。
二匹とぼく達の距離は案外近くて、どうにかすれば向こう側へ飛んでいけるんじゃないかって思うくらいだった。




