深い溝
ルーディー以外の全員がそこを超えても、ぼくら二人だけが手と手だけで繋がっていた。
ぼくはなんとなく彼女のことがいとおしくなって、そんな気持ちの表情をちょっと割り増ししたりなんかして彼女に向けた。
「スミシー、足は大丈夫?」
ルーディーは溝に落っこちたぼくを心配してくれたんだ。
「ああ、このとおりさ」
ぼくはそういうと、ちょっとおどけて、その場でタップなんかを披露した。
「・・・あたし、いけないわ」
彼女はそういってうつむいていた顔を上げたんだけど、その視線は間違いなくぼくの顔を突き抜けていたんだ。
「あたし、生まれてから一度もこの先へ行ったことがないの・・・」
「ああ、ぼくも行ったことがないよ。怖いのかい? 怖くはないよ。僕と、ぼく達と一緒なら、絶対に」
ぼくはわざとタップなんかしてうきうきしたように見せていたけど、なんだか心はどんどん重くなって痛んだ。
ぼくには、傾いてしまった彼女の心を変えられそうにないって事に気付き始めていたから。
「スミシー、急ぐんだ」
ジェラールの声に過敏に反応すると、彼女はその余韻に遠い目をして浸ったりするんだ。
「・・・スミシー、あのね?」
漸くこっちを向いてくれた彼女の目を見たぼくは、
「そうだ、ぼくはきっとここへ戻って来るんだ。何時になるかわからないけど、きっと戻ってくるよ。だからそれまで、君にはまっていてほしい。漸く一人じゃなくなったのに、寂しいだろうけど、これだけはわかってほしい。君は一人じゃないんだって事を。寂しくなったときは、君は一人じゃないって、ぼくが言ったこの言葉を思い出して。それで、ついでにぼくのことも思い出して。そうすれば、寂しくないだろ? ぼくはきっと帰ってくるよ。そしたら、その時は僕、君をお嫁さんにもらうよ。それがいいだろう? それで、みんなも二人のお家に呼んだりなんかして、一緒にバーベキューなんかをやろうよ。そうだ、その時は僕、タップを披露するとするよ。結構得意なんだ。みててごらん」
そういってぼくは一生懸命足を踏み鳴らしながら、
「どう? 楽しくなるよ、きっと」
なんていったんだ。
「・・・スミシー?」
ルーディーはちょっぴり慣れない笑顔を作った。
「わかったよ。ちょっとの間のお別れだ。楽しくいこうじゃないか。本当はお楽しみにしておきたかったんだけど、ぼくは、少なくともこの通路を渡りきる間は、君のために踊り続けるよ」
そういうとぼくは、足に落としていた視線を再び彼女に向けなおした。
「・・・」




