ミスタ・レイク、その過去
「ある時!」
らくだ口はおじさんの口を塞ぐのがえらく上手だった。
「このピラミッドに一人の男が忍び込んでいました」
「墓荒らしか?」
おじさんがそう訊いても、隊商は答えず、ちょっとの間、ため息交じりの沈黙をして見せた。
「遺跡を発掘するには、必ずその国の許可が必要です。わが国では、安全上の問題、たとえば、発掘隊と盗賊を見分けるために発掘をできる時間が決められていて、具体的に言えば、日が暮れたら発掘はできなくなり、それ以外に遺跡に立ち入ったものは、盗賊とみなされる、などの規定が設けられているんです」
「おれは発掘のためのルールを学びに来たわけじゃないぞ」
おじさんは斜め上を睨みながらそういうと
「存分に調査できる発掘者のトップだったボスが、どうして時間外にここに忍び込む必要があったんだ」
らくだ口はやっぱり十分にもったいぶってからこう呟いた。
「・・・それは私にもわかりません」
「わからないだと? お前は俺―――」
「で・す・が」
実際ぼくは疲れていたから、もう眠くなっていたんだよ。
「その後開かれた査問会議で、ミスタ・レイクはこう証言しています・・・」
らくだ口って、もったいぶるのが多すぎるんだもの。
「遺跡を発掘していたのだ、と」
「遺跡の発掘なら、それまででも存分にやっていたじゃないか」
「夜でなければいけなかった、と。しかし実際、夜の発掘が絶対不可能というわけではありませんでした。特別な申請が必要になりますが、それが通りさえすれば、期間を定めた許可が下ります」
おじさんはやつれて、無精髭が濃くなってきた頬を手のひらでこすり挙げると
「・・・それならなぜ申請をしなかった」
と呟いた。
「・・・時間が足りなかったのだ、と。確かにミスタ・レイクの発掘隊の許可期限は迫ってはいましたし、隊員からの信頼が揺らぎつつあった時期ですから、彼なりにあせってはいたのだと思います」
「目立った発見ができなかったからか」
「いえいえ、ご覧のとおり・・・」
らくだ口はそういってからちょっとせせら笑い
「失礼しました。ごらんになればお分かりになるでしょうが、このピラミッド自体が本来ならば、世紀の発見として称えられてもおかしくないほどの代物なのです」
「でもぼく、赤いピラミッドがあるなんて、知らなかったな」
ぼくが眠い目をかっぽじってそういうと、
「一人の不名誉な行動のために、世界的な遺産が闇に葬り去られることがあるんですよ、この世の中には」
空気穴を通っていやに震えた調子になっているらくだ口の声がぼくに辛うじて届いた。
「彼は、ミスタ・レイクは、仮説を証明するためには、夜の発掘が必要不可欠である、と謳ったんです。・・・査問会議の、証言台に立った彼は、天を仰ぎながら、包帯でぐるぐる巻きになった顔を前に突き出しながらそう訴えました」
「ボスは墓荒らしにいって、その時に光を失ったのか」
「ええ、彼は二人の召使と共に遺跡に忍び込み、何らかの傷を負ったようです」
ぼくは遠くにある光の布を手に取るように、両手を広げた
「・・・召使の一人は死に、残ったほうがこう証言しました。ご主人様は、宝石を捜し求めておられました、と」
「ボスはなんていったんだ」
「否定はされませんでした。むしろ肯定的にも聞こえる『美しい光が見えた』とだけ答えました。今までに見たこともない不思議な光が、と」
「美しい光が見えた・・・不思議な光?」
「ええ、それが何の光なのかはわかりませんが、その証言が、ミスタ・レイクを有罪にしてしまったことには変わりありません。無論、ライバル側の工作があったようですが」
おじさんは隊商の声を、苦瓜と一緒にかみ締めた。
もう苦瓜の苦味なんかが気にならないくらいに食べなれてきていたんだ。




