ミスタ・レイク、その過去
「それから数日、このピラミッドはひどい賑わいになりました。ミスタ・レイクの虚言とはいえ、彼の証言した、見たこともない光を放つ何か、それは恐らく宝石なのでしょうが、それを求めて、昼夜を問わず、発掘隊然り、盗賊然り、国の許可などそっちのけで金に目がくらんだやつらが群がりました」
らくだ口はゆっくりと最後の苦瓜を落とし終わると、
「その数日、残虐なことも行われたようです」
なんていやにしんみりした感じにいい、
「ですが・・・」
ともったいぶった後、
「それも数日で終止符が打たれました」
と呟いた。
「何があった?」
「・・・みんながみんな、押し流されてしまったんでさぁ」
らくだ口の声が急に伸びやかになったんだ。
きっと、空なんかを仰いだりなんかしているんだよ。
「年に一度の大雨が降ったんです。丁度ピラミッドに人が押し寄せるのを待っていたかのように、大雨が降り、大洪水が起こりました・・・」
ぼくはその言葉を聴いて、ここの最下部にある水溜りの、赤く濁った水を思い出した。
「すし詰めになっていた発掘者達は、その時、遺跡内で起こったといわれる鉄砲水を回避できず、ことごとくその餌食となりました。・・・発掘者たちの大半は、翌日、近くにあるヤブミ川の水量が落ち着いたころに周辺で発見されました」
なんとなく最下部の水溜りを照らす光なんかを見た。
どうしてピラミッドの中心部から光が出ているんだろう。
「その後、定説を裏付ける証拠として、年に一度の大雨が、多くの労働力を奪い、墳墓の建設を妨げたことが加えられました」
「ボスは、その大雨でピラミッドが半壊したのだと?」
「ええ」
「大雨の後、ここにどれくらいの損傷があったんだ」
「それについては多く議論が交わされました。調査隊の報告では、その時の損害はごく軽度で、遺跡の崩壊につながるほどとは考えられないとのことでした。ですが、超長期的に見れば、ダメージの蓄積により遺跡が崩壊する可能性も否定できないとの反論もありました。ただ、それを確かめる術がない。結局、ミスタ・レイクの説は敗れ、未完という説が定着したというしだいです」
らくだ口は恐らくおじさんからもらった紙幣のにおいなんかをかいでいたんだ。
「結局、なぞはなぞのままってことか」
そうおじさんが呟くと、
「いずれにせよ、歴史を解明するものの大前提である、事実を真摯に受け止める態度が、あの頃には見失われていたんでしょう。そのことが、この世紀の大遺跡を世の中から消し去ったんです」
「おれ達はここにいていいのか・・・」
急に深刻な顔をしたりなんかして、おじさんはそう呟いた。
「地下ばっかりに閉じ込められていても、ボスがほしがっているものがここになかったら、おれ達に助かる道はない」
おじさんの声にもらくだ口は反応せず、ちょっと外があわただしくなってきた。
「待つんだ! これだけは聞かせてくれ。ボスは墓荒らしに行ったとき、このピラミッドのどこを探索していたんだ」
らくだ口は鞭を叩き、らくだかなんかと一緒に身を翻した感じになると、
「それはわかりませんなぁ」
といってせせら笑い、
「ですが、ここくらいしか扉石があるところがなくってねぇ」
「お前たちは、おれを閉じ込めるためだけに、ここへつれてきたのか!」
「しょうがないでしょう? 上には扉なんてないんですよ。なんたって、みんながみんな野ざらしなんですからねぇ」
っていうらくだ口の声は、どんどん遠ざかっていった。
それで、
「おや」
っとぼく達なんかを忘れたような声を上げると、
「この辺じゃあ珍しい雲が出ていますねぇ」
なんてとぼけたことを口にした。
「では、また今度。あたしゃ、あんたがたならやってくれるって思っているんですよぉ」
そんな嬌声が届いたのを最後に、空気穴から届けられる音はなくなった。
暫くらくだ口が塞いでいない空気穴を覗いていたんだけど、何時の間にか口やら目の部分だけの日向ぼっこを始めていたんだ。
とってもあったかくって気持ちよかった。
いやにまとわりつく湿気やなんかが全然なくって、そりゃ何回も反射してはいたんだけど、それでも、気持ちよかったな。
でもね、どうだろう、ぼくのそんな気持ちをあざ笑うかのように、すぐに光は消えてしまった。
変わりに、なんだか微かに振動なんかが起こっている気がしてきて、ぼくは必死に外の景色を覗こうとしたんだ。




