ピラミッド
「行くぞ」
おじさんは穴を掘ろうとはしなかった。
ぼくが掘った穴全部から水は染み出したんだけど、どれも透明とは言いがたかった。
「ねえおじさん、ひとつ聞いてもいいかな」
立ち上がりざまにそう切り出した。
ぼくはやっぱり不思議なことがあると聞かずにはいられない性質なんだよ。
「たいしたことじゃないんだ」
おじさんに追いつく頃には、なんだか平坦だった道がまた勾配を付け始めた。
「・・・・・・心配するな。もう襲ったりはしない」
おじさんは振り返りもしないでそういうと、
「俺はうそつきだが、こんな状況じゃあ欲情しようにも、な」
なんて面白くもない口調で続けた。
「違うよ、ぼく、知りたいんだ」
「どうしてお前を助けたのか、だろう? それがおれにもよくわからなくってな」
ぼくらはそれから暫く口をつぐんだ。
上り勾配が結構きつくなっていたんだね。
「おれは焼きが回っていたんだよな・・・・」
ちょっと苦笑気味に声を上げたおじさんは、入り口にあるのと同じような空気穴を覗き込んでいた。
「実際、ジプシーなんかにコケにされちゃあ、ヤキが回ったとしかいいようがない」
カリプソさんはそういってちょっと華麗に体を昼返すと、来た道を戻らないで、空気穴の開いている壁に沿って歩き始めた。
「だからって、焼きが回ったからって、お前を助ける理由になんかなりゃしない、なりゃしないんだ。だがな。ジプシーの親子が事務所に乗り込んできて、結局マンホールを埋められる始末になったとき、それで、底にはまだ全身やけどで動けないままのお前がいるって知ったとき、おれは謹慎を破っても、お前を助けなきゃならないって思ったんだ。どうしようもなく助けなきゃって気持ちで頭が一杯になったんだ」
おじさんは笑っているようだったけど、決してこっちを向かなかった。
「理由なんてない。ボスがジプシーを目の敵にしているのを知っていたしな・・・。だめだ・・・ダメだ」
「違うよおじさん」
ぼくはタイミングを計っていたんだけど、ついにこれまで口を挟む機会に恵まれていなかったんだ。
「ぼくはそんなこと、知らなくっていいんだ」
おじさんは立ち止まったりなんかして、漸くこっちを振り返ると、
「・・・・・じゃあ何が聞きたいんだ?」
なんてぴくりとも動かずに言った。
「さっきの話だよ? おじさんはどうして、迷いもしないで、水溜りがあるところにいけたのかなって」
ぼくは笑ってそう聞いた。
おじさんはとっさな感じに前を向きなおすと、なんだか長く考え込んだりなんかして、丁度苦瓜が積んである元の入り口に辿り着いたくらいのときに、口を開いた。
「・・・光だよ」
おじさんはなんとなく達成感を感じた風に一番上の苦瓜をとると、振り返り、答えた。
「おれはただ、一等綺麗な光を目指していただけさ」




