よく喋る猿
「おれ様は本来、男なんぞとは話さない主義だが、まあいいだろう、随分見なかった珍しい生き物に遭遇したと思えば、なんとか口を聞ける程度には、機嫌が収まる」
僕なんかは、だんだん逆にサルのことが可笑しくなっていたんだけど、スリムな声を発する人の直ぐ後にぴたりと従っていた人は、結構頭に来たらしくって、なんだか考え込んでいてやり取りを聞き逃しているジェラールなんかの前まですごい勢いで前に出た。
でも、
「よい」
ってだけスリムな声がすると、その後はその人、びっくりするくらいぴくりとも動かなくなったんだ。
でも、視線はサルのことを絶対逃がさない正確さで追いかけていて、これにはサルが怯えてしまったほどなんだ。
「おい、おいおい、いいのか? おれは、いいんだぜ? 譲ちゃんには何時だって会えるんだし、このまま消えちまってもさ」
サルはなんとなく何度も忙しなく後ろを振り返る風をしながら言うんだ。
「ツェッペリン、そう急くでない」
なんて前に出た、ツェッペリンと呼ばれた人をゆっくり追い越すと、スリムな声は、サルに見透かしたような視線を送った。
見透かしたといっても、スリムな声の視線は、全然それ以外の、例えば蔑みだったり、品位が欠けていたりだったり、そういう感じはなくって、本当に無駄のない視線を送っていた。
そういえば彼、動作の一つとっても、みんな無駄が無くって、ひどくすっきりした印象なんだ。
ルーディーがなんだか節目がちだったのもあるんだろうけど、僕らはまた黙って上りを歩き始めたんだ。
サルは高飛車にこっちにちょっかいを出していた。
でも誰にも相手をされないから、なんだか仲間はずれにされたような気分にでもなったんだろうよ。
だからじゃないけど、サルは一人でに、こっちが訊いてもいないことをしゃべり始めたんだ。
「アメリのやつが言ってたぜ。ところで、おれ様はその時、あいつに膝枕されてたな」
サルってのは話し出すと、他の動きがあんまりできないらしくって、あらかじめ遠くまで先回りしては、そこから大きな声で僕らに呼びかけるんだ。
「決して、きのこに当たってくるしんでいたところを助けられたわけじゃないぜ?」
それで僕らがサルのいる枝を通り過ぎると、彼はなんだかしょんぼりした感じで、僕らの歩調に合わせてゆっくりと腕をねじって体を回転させたりするんだ。
「とにかく、アメリのやつは、湿った枝を集めては乾かして、小屋の隅に積み込む作業をサボってまでおれ様の心配をしたんだ」
サルは腕一本でも難なく枝につかまっていられたんだ。
時々足でつかまって、逆さになったりもしたな。
「それで、あいつ、暇だからっておれ様の耳元で、半分居眠りしながら、歌なんか歌いだしやがったのさ、丁度、こんな感じに―――」
先回りしていたサルは群生する大樹のどれかに駆け上がって、どこまで続いているかもわからない森の隅々にまでいきわたるくらいの大声で、でもなんとなくのんきな感じに歌いだした。
さんついくもいぼいとつむぎ
にだんがまえのたないとに
とんがりほしがたかくれおび
いっついきばをみがいては
よんついあしをすりあわせ
ななふしあしをきしませて
むっつのめだまでみあげてる
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