よく喋る猿
劇的って、どんな感じ?
僕が思うに、いずれにせよびっくりするくらい平凡な感じなんだと思うよ。
それは意識すれば意識するほど。
驚いちゃうのが尺だけど、驚きもしないのは、もっと尺なんだね。
深い森の、真ん中の草が禿げて出来上がった道を僕らは黙って登っていたんだ。
僕とルーディーは手を繋いでいて、時折、手を引っ張られたりしたけど、そんなときは、
「お嬢さん、その美しいおみ足に、これ以上の筋肉をつけてはいけない。僕はそう思うのです」
なんて、芝居がけていったもんだ。
それで、多分それが間違いだったんだろうけど、もっと下手な芝居を打ったやつが、僕らの前に現れた。
「そんなところで何しているの?」
僕らはみんな、大分前からそいつの存在に気付いていたんだけど、実際、知らん振りしようとしてたんだな。
でも、あんまり不自然に木を揺らすもんだから、露にぬれた落ち葉が僕のほっぺたについたりして、気分が悪くなって、声を掛けざる終えない状況に追い込まれたんだ。
「キッキ」
って笑って、そいつはそれこそ高飛車に
「そんなに知りたいのか」
なんていうんだ。
「そんなに、おれがこんな木の上で何をしたいのかってのが、知りたいんだな?」
「いや、言いたくないならいいや」
実際そいつに顔を向けていたのはぼくだけだったから、ちょっとそっけない態度をとっちゃった。
「待ってくれよ。知りたいはずだよ。なんてったっておれっちは、人の言葉が喋れるサルなんだぜ」
木の上のそいつは、結構毛むくじゃらだった。
「相手しちゃダメよ」
なんて見て見ぬ風のルーディーが言うんだ。
「おいおい、つれないね。未来のだんな様に対して、もう少し態度をわきまえたらどうなんだ?」
僕らは黙って山道を登り続けていた。
勿論、猿も追い越されては先回りして幾度もぼく達にちょっかいを出してきたんだ。
「譲ちゃん。まだ腹は決まらないのかい? こっちはいつでも準備万端だ。シュペイルのやつも、ミリーのやつも、アメリのやつだって、実際おれが女にしてやったんだぜ? 譲ちゃん、信じなくてもいい。だが、もう少しで俺はあの橋を渡れる。アメリの奴を説得したんだ」
人の言葉がしゃべれる猿なんて珍しいと思って、ちょっと興味もわいたんだ。
でも、あんまり高飛車で、なれなれしくて、いやらしい笑みを浮かべているから、なんだかうんざりしてきたよ。
「あいつ、思わせぶりなことを言いやがって、自分を見てほしくてたまらないのさ。だが説得したぜ。ちょいと優しくしてやって、毛づくろいなんかをしてやって、カチューシャの後を撫ぜてやったりしたら、今度、橋を渡るんだって話を、こっちが聞きもしないのに、しやがったんだ。それって、おれに橋を渡っていいって言ってるようなもんだろ?」
「おい、お前、その橋とやらは、この先にあるんだな?」
聞いたことのない声が、サルに投げかけられた。
僕が言うのもなんだけど、とっても気品に溢れていて、スリムで硬質な感じがする声だった。
思わず振り向くと、ジェラールの直ぐ斜め後ろに立っていた人が、サルを見上げていたんだ。
彼、体に合わせて、なかなかの顔立ちをしているんだ。




