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赤い砂漠

僕は必死に窓を探したよ、だって、月が見えるかもしれないじゃないか。


実際ここは、外より一段も二段も暗くなっていたから、見渡せば明かりの一つも見つかるんじゃないかってね。


それで、確かに煙みたいな明かりが仄かに線を引いているところを見つけたんだ。


でもそれはとっても薄められていて、何度も反射した末にここへ辿り着いているに違いない、ひどく薄っぺらなものだった。


それでも僕はうれしくって、その煙の布を羽織ったりしたね。


なんとなく悲しくなったけど、僕は振り向いて、おじさんに微笑んだよ。


「ねえ、黒尽くめの人たちはどこにいってしまったんだろ」


カリプソおじさんの後ろにぴったりついていた数人が、いつの間にか消えていたんだ。


ぼくはぽかんと口を開けて、まっくろだった人たちはほんとうの陰になったのかもしれない、なんて思って、ちょっと目を凝らしたりした。


すると、なんとなく目が虚ろだったおじさんは、鋭く後ろを振り向いて、僕なんかお構いなしに全力で走り出した。


足が砂にはまっておじさんはうまく進めなかった。


「いやだ・・・いやだ・・・」


蹲ったカリプソさんの吐く息で、砂が軽く吹き飛んだ。


おじさんはためらった挙句、頬を付けた。


なんとなく砂がぬれていたんだけど、ぼくは知らん振りして、入り口のほうまでゆっくり上っていったんだ。


というのも、ぼく達は入り口から暫く下ってきていたんだよ。


本当はどこが入り口だかわかったもんじゃなかったんだけど、トラックを降りて直ぐ、僕の手綱を引いていたおじさんが、著しく僕に接近したときが一度だけあったんだ。


多分そこが入り口なんだね。


丁度その頃から長い下りがはじまったんだし、そんなわけで、それを遡ればいいってことくらい僕にでも考え付いたんだな。



「おやおや、今回はまた、偉くお若い坊ちゃんですねぇ」


一人で取り敢えず上っていくと、一筋の光が見えてきて、僕はそこまで必死で駆け上ったんだ。


石を刳り抜いた空気穴があって、らくだ口をした青髭のおじさんが、僕を見るなりそう声を発した。


おじさん、ぼろきれみたいな布を全身に羽織っていたけど、僕の目はらくだ口を見逃さなかったんだ。


「墓守か・・・」

 

「ええ、さようでさぁ。旦那、えらいところへ閉じ込められた門ですなぁ」


らくだ口はせせら笑う感じをこっちに向けた。


どうやら彼には悪気がないようだから、いい気持ちはしないけど、そんな笑いを気にしないように、と思った。


「ぁたしゃ、この辺を回っている孤独な隊商なんですが、ぁる時、ひょんなことからここの墓守を仰せつかったんでさぁ」

 

「隊商か・・・」


おじさんは唾を豪快に飲みながらポケットをまさぐると


「金なら・・・ここに、ここにある」


っていいながら鷲づかみにした何枚かの紙幣を震える手で差し出し、


「今すぐここから出してくれ」


なんて狭い空気穴に額を刷りつけ、言った。


「足りないのか? 出してくれるなら、後でおれの全財産をくれてやってもいい」

 

「ぁたしゃ砂漠の隊商。売れないもんは何一つぁりません。ここは死んだ人間の目玉だって売れる土地ですからねぇ。ですが申し訳ない、ぁんたたちの願いばっかりはきけませんのですよ」


そう言うとらくだ口は、やっぱり例の笑いを僕らに聞かせてきた。


「約束がぁりますからねぇ」


なんて声と同時に、空気穴から何かが落っこちてきて、ころころ斜面を転がると、僕を突き飛ばしていたおじさんの足元で止まった。


「これは何だ?」


おじさんは慌てて足元のものを拾うと、らくだ口に叫んだ。

 

「ぁぁ、落っこちてしまいぁしたか。こりゃ完全にぁたしの不注意だ。落っこちたものは仕方ない。ぁたしらの出会いの記念に、そいつをぁなた方に差し上げるとしやしょう」

 

「お前、隊商といったな? 何を売っているんだ?」


「ぁたしゃ砂漠の隊商。形ぁるものから、無形のものまで、取り揃えておりまさぁ」

 

「それなら―――」


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