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盲目のボス

黒くてやたら凸凹した車に押し込まれたぼく達は、サングラスのおじさんたちに挟まれて連れて行かれた。


車内は窮屈だったから、下ろされたときは少しうれしかったよ。


でも、反対側から降りたおじさんの顔色を見たら、自分もあんなに青くなっているのかって気が気じゃなかったな。

 

後ろに回ったサングラスのおじさんは、


「早く歩け」


って僕をせかすんだけど、後ろ手に結ばれた荒縄が皮膚に食い込んで、早く歩こうにも慎重にならざるを得なかった。


黒いスーツのおじさんたちは、きっとわざと僕を押したり引いたりして面白がっていたんだと思うよ。

 

「カリプソ君、ごきげんよう」


僕らは長い下り階段を結構歩いて、反響がすごい部屋に通されたんだ。


「私の睡眠時間は三時間、これ君、知っているかね?」


そんなだだっ広い空間には高価なオフィスデスクが一台置いてあって、ふかふかの肘掛があるチェアに掛けた人物が、組んだ手をデスクについたタイミングで言った。


「何時に眠るのかって? 午前三時から六時までだ」


カリプソって言われたちょび髭おじさんは何にも聞いていないのに、白いスーツにきまらないネクタイの人物はそう答えた。


「今、何時だか知っているかね」


デスクの人物の顔は窺えなかった。


部屋は真っ暗で、デスクの上のライトが、人物のあごからひじまでを浮き出させているだけだった。


右腕には金ぴかの時計が巻いてあったな。


「じきに三時になります」


眩しすぎて僕はその文字盤が見えなかったんだけど、ちょび髭おじさんは、そういった。


言った傍から白い人物は腕時計のネジを細かく回した。


「外れ。もう三時を回っています」


見えないだけで、彼の周りには、何人も黒いスーツのおじさんたちが立っていたんだな。


その気配は実際、白い人物より威圧的だったんだけど、サングラスのおじさんたちは彼の指一本で動かされていたみたいだった。


「こうしている間にも、時間は刻々と過ぎ去っていきます」


机が爪で引っかかれる軽い音がすると、サングラスのおじさんたちは動き出した。


手首が千切れそうなほど引っ張られたんだ。


「カリプソ君。あなたがしでかしたことは些細なことです。たかが物乞い一人を犯そうとしただけですからね」


軽くそういいながら白い人物も立ち上がった。


「どうか・・・どうか・・」


ライトに蛇だか鰐のぎらぎらした皮が怪しく照らされていた。


彼はうんざりしたしぐさで振り向き、高い音を立てる革靴を踏み鳴らしながら


「だが、逃げ出すのはいただけませんね」


っといい、真っ暗の中からこなれた風に指がならすと


「結果、私の睡眠時間を・・・三分も奪ってくれました、これ、重大ですよ?」


っといった。


「御慈悲を・・・」


「おじいさん、おじいさんは目がないんだね?」


僕には白い人物の顔がうっすら見えていたんだ。


言葉をこちらに向けるときでさえ、彼は視線を宙に漂わせていた。きっとずっとそうなんだよ。


「・・・二人を赤い砂漠へ連れて行きなさい」


白い人物は立ち止まると、振り返らずにそういった。


「私の三分はもう取り戻せない。ならばその長さを、身を持って味わいなさい。無論、君たちのそれに置き換えて」


部屋の隅にまで連れて行かれると、ドアがひとりでに開いて、一段明るくて冷たい明かりがぼく達を包んだ。


「目が見えないことは悲しいけど、それを他人に押し付けちゃいけないよ」


明かりが真直ぐ白い人物の背中を照らしていた。


「自分の苦しみは、他人が手を差し出したとき以外、分け与えてはいけないんだ」


僕は引き摺られていたから、大体後ろを向いていたんだな。


「坊や、おまえさん、死んでもほしいものはあるかい」


地下は冷え込んでいて、白い人物の顎先から、色を帯びた空気が漂っていた。


葉巻の煙だったのかもしれないけど、なんだかとっても純粋な感じがして、視線を宙に漂わせている彼の何気ない一言が、ちょっぴり首筋をしびれさせたんだ。


「坊や、見つけてきなさい。私のほしいもの。君のほしいものと同じだから」


一瞬口の端を持ち上げたみたいだったけど、白い人物の本当の顔を見ないまま、錆びきった鉄扉は閉じられた。



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