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時間

ゴミ箱に移動したから、僕は二台のトラックの位置をはっきりと確認できていた。


荷台に乗ったティラードが後から悠々とやってきた黒光りする車に向かって、笑っているのか泣いているのかわからない顔で何かを叫んでいるんだけど、咽喉が引きつっているようでよく聞き取れなかった。


変わりにサミーラが静かに、


「止めておくれよ、やめておくれよ・・・・・」


って何度もいっているのだけはわかった。


黒光りする車の窓は曇っていて何にも見えなかったんだけど、おもむろに窓が降りると、中からとっても綺麗でしなやかな手が出てきて、なんとなく円を描いたりして見せた。


そしたら、収まっていた振動が再び起こり始めたんだな。


トラックの荷台が持ち上がっていくときの振動だよ。


一台目のほうの砂が徐々にすべり落ちて、トラックとトラックの間に砂がこんもりと積まれたんだ。


よく見るとコンドルの彫刻が施されてあるマンホールの蓋が道の端に放られていた。


僕はなんとなく外に出て行きたくなったんだけど、おじさんにしっかりと腕を掴まれていたし、口をふさがれていたから身動きは取れそうもなかった。


積荷を降ろしたトラックはさっさと消えてしまったんだ。


それで、ティラードたちも下ろされて、二代目のトラックもバックで消えていった。


その様子をボンヤリ眺めている間に、閑散とした道の真ん中に盛られた、真ん中だけがへっこんでいる砂山にサミーラが走りよっていった。


彼女は必死で砂山を掻き分けてね、きっとトンネルでも作ろうとしていたんだよ。


「そろそろいくぞ。長居はいけない」


おじさんに腕を引かれるままに僕は踵を返したんだけど、顔はそのまま、黒光りする車に歩み寄るティラードと、立ち尽くすアンワルなんかを見ていた。


ティラードは車に触ろうとしたんだけど、制されたらしく、動くことも許されないままわけのわからないことを必死に訴えていた。


ティラードが夜露に湿った道路に額をついたりしたとき、しなやかな手が一瞬隠れ、次に見えたときには、一枚の硬貨が指に挟まれていた。


「急ぐんだ。一刻も早くここからはなれなくちゃならない」


腕が強く引かれた。


僕は、ゴミ箱を慎重に這い出ながらも、やっぱりちっちゃく丸まったティラードを見ていた。


しなやかな手が持っていた硬貨は指をすり落ちた。


というより、いらないものを払うように放ったというほうが正しかったよ。


そしてそれが丁度ティラードの頭の上に落ちたんだ。


硬貨はティラードの首筋に乗っかったままで、さぞかし冷たかろうに、彼は全く動こうとしなかった。


変わりに車の窓が閉まって、黒光りする車がその場を立ち去った。


目だけで車を追っていたアンワルが突然叫び声を挙げた。


サミーラも震えるようなか細い叫び声を挙げた。


ティラードは額を道路に押し付けたままでくぐもった叫び声を上げた。


僕はビルの合間に入り込むまで、彼らのことを見ていたよ。


それで、ティラードの首に乗っけられた一枚の硬貨が、自分がおじさんからもらったものなんじゃないかなって漠然と考えていた。


「鼠の考えることは皆同じだな」


そんな野太い声が聞こえてきたのは、ビルの合間から細い裏道へ抜け出そうとしていたおじさんが立ち止まったときだった。


僕はほうけていたから、おじさんの背中に頬をぶつけて、ひどい痛みに襲われた。


「暗いところへ、暗いところへ。そうじゃなかったら狭いところへいきやがる」


「それはあんたらにだっていえることじゃないか。違うか?」


おじさんの背中は震えていたよ。


恐る恐る声のほうを向くと、逆光に浮かび上がった姿は巨大に見えて、眩しくてぼやけていたんだけど、その人が真っ黒なスーツと、夜なのにサングラスなんかを掛けていることだけはわかった。


そんな格好をする人たちを僕はつい今しがたみていたんだ。


そう。


黒光りする車に乗っていた人物の周りにいた人たちの格好はみんなそんなだった。


「口だけは減らないな。相変わらずでうれしいぜ。ボスの前でもその減らず口が通せればいいんだが?」


そうおじさんに言うと、顔の見えないその人に肩をつかまれた。


ずっしりする手のひらだったな。それで僕は、なんだか自分が、この人たちに捕まってしまったんだなって思ったんだ。


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