叫び
叫びと沈黙って言うのは、正反対のようで案外似たもの同士なんだよね。
勿論全く違う時だってあるんだろうけど、取り残された僕がやっていた沈黙なんかは、叫びと同じようなもんだったと思うよ。
狭い部屋には案外ランプの光だってともっていたんだ。
でも、僕の目の前はいくら見たって水滴が落ちたりするいやらしい染みがあるコンクリートだけだった。
体はどんどん冷たくなっていくのに、頭は虫に食べられちゃってるみたいに熱かった。
目が回って、コンクリートの沁みが恐ろしい怪物になって、ランプの陰のマントを羽織ったりなんかした勢いで、僕に襲い掛かってきたりしたんだ。
だからじゃないけど、再び金属の蓋が開かれ、真っ赤なスープをご馳走してくれたおじさんがはしごを下って現れたときは、僕、なんとなく頬を綻ばせてしまったよ。
おじさんは屈みながら僕の顔を覗きこんだ。
僕が寝てるとでも思っていたんだろうね。
「何しにきたんだい?」
おじさんが僕の首筋に触れようとしたとき、そう声を発した。
うまく発音できなくて咳き込んじゃった。
それでも僕は、その時は誰とでもいいから少し話がしたかったんだよ、たまらなくね。
「迎えにきたんだ」
彼は僕の首筋に手を当てると、自分に向けたようにそう呟いた。
「そうだね、丁度何処かへ連れて行ってほしい気分だったんだ」
僕は一言言葉を発するのも一苦労だった。
唇が突っ張ってなかなか口が開かないんだ。
「でも、僕はアンワルたちの帰りを待たなくちゃ」
「あいつらはもうここへは戻ってこない」
おじさんは頭に巻かれた包帯に手をやりながら億劫そうにそう答えた。
「すぐにここから出るんだ」
僕は抵抗しようとしたよ。
でも、素っ裸の僕に自分の着ていたコートを被せてくれたおじさんの言うことを無下に断ることなんてできなかったのさ。
それで、僕は肩なんかを借りながら這うように梯子を上ったんだ。
「頭のほうは大丈夫かい?」
なんて妙に盛り上がったおじさんの後頭部を見ながら言ったりしたんだけど、彼はあごをしゃくって僕をせかすだけなんだな。
「急ぐんだ。自分の足で歩け」
なんていわれたのは、やっとの思いで地上に這い出た直後のことだった。
僕は空に吸い込まれていく街灯の光を呆けてみていたりしたんだけど、おじさんはそんな時間すら僕の自由にさせてくれなかった。
近くにあったビルとビルの間に滑り込んで直ぐに、ぼく達のお尻を二台のトラックが通り過ぎた。
一台目には堆く砂土が盛られていたんだ。
それで、大体近くに止まったことはわかった。
辺りはビル群だったから、鉄工所なんかないに決まっていたんだけど、とにかくトラックは近くに止まったんだな。
それで、二台目は、ぼく達に見えるくらいの位置に止まったんだ。
「黙るんだ」
僕は何も言っていないのに、おじさんはそういった。
そして
「よく見ておくんだな。あのままお前があのマンホールの中で寝転んでいたら、どうなっていたのかを」
なんてトラックを見ながら言うんだけど、僕はそんなことより、二代目のトラックの荷台に乗っている人たちを見ていたんだよ。
ぼくは近くにあった、錆付いたでっかいダストシューターなんかにもぐりこんで、荷台で何かを叫んでいるのがティラードだって事を確認したんだ。
彼は泣いていたよ。
それで、サミーラも泣いていた。
アンワルだけが、涙も流さないでうつむいていたんだ。
違うな。
あの時の彼は、うつむいてはいたけど視線は目の前をしっかりと見ていたんだ。
歯を食いしばって、咽喉を何回も下して目の前をしっかりと見据えていた。
瞳が異様に照り返していたから、そうに違いないんだ。




