まどろみの幸せ
それでも独り言をやめないサミーラも、聞き取るのもやっとの声でうめきながら、何度かアンワルを見たりして、たまに強く押し殺したため息なんかを吐いて見せた。
彼女もアンワルと同じように、僕越しにコンクリートを睨んでいたよ。
多分彼女もアンワルと同じ気持ちなんだと思うよ。
こういうのって、なんだか言ってるほうも聞いてるほうも同じ気持ちになってくるじゃないか。
勿論、言ってるほうがそれを楽しめるやつだったら別だけど、サミーラは決して楽しんではいないみたいだったよ。
でも、やめられなくなっているんだな。
自分も嫌になっているのに、言葉が途切れたあとの沈黙ってやつのことが頭の隅に出てくると、辞めたくてもやめられなくなるんだ。
見かねて僕は、きしむ腕を伸ばして、できるだけ優しくサミーラのせわしなく動く腕を掴もうとしたんだ。
でも、丁度その時が、アンワルが僕に背を向けたときだったから、痛いままの上体で、僕は固まるほかなかった。
「―――なくなればいいんじゃろ? そうさな、おう? ちょうど、もうこんなとこ、おさらばしようと思うとったところじゃい。・・・おさらばじゃ・・・」
アンワルは勢いよく立ち上がろうとしたんだけど、なんせ天井が低いものだから、結局中腰くらいにしかなれなかった。
「ほ、ほうよ、ほう」
なんてサミーラは首だけ振り向きながら息をはいた。
「そんなら、今日から飯代が浮くわい。砂利ん子でも、食うだけはくうからのう、馬鹿にならん」
なんとなく彼女の笑いはぎこちなかった。
そっけない態度でもとろうとしたんだけど、失敗しちゃった感じなんだな。
サミーラの可愛らしい応対にも気付かないくらいアンワルは動揺していたよ。
「・・・ええわいや。そんなら出でくわいや」
なんてひどくか細い声で言うんだな。
それで、なんとなくためらいがちに梯子に足を掛けたんだ。
そんなときだった。
金属が引き摺られる嫌な音がして、梯子の上にある蓋が開けられた。
僕は必死であごを引っ込めて、その先を見たのを覚えてる。
でもサミーラが邪魔で見えなかったんだ。
ただ、声は聞こえた。
閉塞された空間だから、変に響くんだよね。
「・・・あの子は大丈夫かい?」
その声は、ティラードのものだった。
なんだか耳を澄まさなければ聞こえないほど声を潜めてる感じなんだな。
かれ、僕に気を使ってくれていたみたいなんだよ。
なんだか不自然な静けさが降りてきて、サミーラは勿論、ティラードもアンワルも一言も口を開かなかった。
ティラードはこっちに入ってくるそぶりもなく、腕を振ったりして服がこすれるときの音が聞こえてくるだけだった。
「・・・・ちょっと出てくる」
なんていったアンワルの声は、妙に冷たくて、さっきまでの戸惑いのある暖かさはなくなっていた。
サミーラはなんとなく状況を理解したみたいなんだけど、僕にはさっぱりだった。
「サミーラも来てくれ」
なんて当然のように言い捨てると、アンワルははしごを上り始め、サミーラは肯きもせずに後を追っていった。
僕は動けなくて、やわらかい風を送ってくれる人もいなくなってしまって。
何だろう。
少し頭が変になりそうだったよ。




