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まどろみの幸せ

眠りから覚めるか覚めないかの少しの時間。


まどろみとも言うらしいけど、起きているのか自分でもわからないあの感じが僕は好きなんだよね。


でも、飛び起きてしまった僕は、そんな悠々とした極めて貴重な時間を端折ってしまったんだな。


「おまえ、目え覚ましたんか? おまえ、起きとるんか」


一回起きてしまうと、自分が起きてしまったことを後悔した。


もう一度眠ってしまおうと目を一生懸命閉じたんだ。


でもどうやらそんなことをしたって眠りは一生迎えに来てくれそうになかったんだな。


だって、僕はただ横になっているだけだっていうのに、全身が焼けるように厚いんだもの。


ちょっと目をパチクリさせただけでも唇が微かに吊り上げられて、なんかゆるゆるした感じの、自分のじゃないみたいな皮膚が引きちぎられるみたいだった。


「ええんよ、ええんよ」


って優しい口調で僕の頭に乗っけられていたブヨブヨを取り除いてから


「何にもしゃべらんでええんじゃから」


なんて大きく何度も肯いて、サミーラは違うブヨブヨを改めて乗っけなおした。


新しいブヨブヨは痛いくらいに冷たかったんだけど、僕の体にとっては唯一の救いみたいなもんだったな。


「今、ティラードが話を付けにいってくれとる。きかんかったら容赦するなっていっといてやったぞ、おまえ」


薄目を開けてアンワルを見ると、彼は何処かバツが悪そうな顔を僕じゃない何処かへ向けていた。


彼のひび割れた眼鏡はやっぱり湿っていたよ。


僕はどうやら、狭くて湿度が異常に上がった場所に運ばれたみたいだった。


たぶん、気を失ってしまった僕をアンワルとティラードがあそこから連れ出してくれたんだと思うよ。


「おまえが目を離さんかったら、万事うまくいっとったもんを」


なんてアンワルに言って、サミーラは新聞紙かなんかをゆっくり仰いで、僕の全身にゆるい風を送ってくれていた。


気付けば全身がぬれているんだな。


それは多分、汗なんだろうけど、湿度が高いせいで水滴が一杯混ざってもいたんだと思う。 


「動いたらいかんて。おまえ、動ける体じゃないんじゃから」


僕は体を抑えられるまでもなく、身動き取れなかった。


実は、裸のままだったから恥ずかしくなっちゃって、少しでもかくしたかったんだけど、そんな簡単なことすらできなくなっていて、動かず身悶えるしかなかったんだ。


二人はずっとそばにいてくれた。


僕に掛けられるのは決まって優しい言葉だったんだ。


でも、二人の間の会話はなんだか下世話な感じで、なんだか、言い争っているようにも聞こえた。


サミーラは何度も


「有望株が」


って聞こえるように一人ごちていた。


「一日の働きにもならんかった」


みたいなことを僕にじゃなくアンワルにしつこく言い聞かせていたんだ。


ふてくされたアンワルは、ずっと僕の顔を覗きこんでいる風で、実は僕ごしにぬれて真っ黒になったコンクリートの壁を睨んでいた。


そしてサミーラにはわからない程度に唇を動かしてなにやらうめいていたんだ。


きっと彼には、サミーラの声なんか届いていないんだなって思ってた。


だって、僕も同じようになるときがあるんだ。


そんなときは決まって人の話をそれ以上聞きたくないってときなんだな。

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