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魅惑のスープ

暖かい食事が口の中に広がって、焚き火の日が顔を火照らせていた。


ぼくは大体幸せだったんだけど、やっぱり一つだけ足りないものを思うと、ちょっぴりさびしくなっちゃった。


それで、両手でそこを持ったスープの皿から出る湯気を追いかける風を装って空を見上げたんだ。


でも一足先に上って言った焚き火の煙と一緒に空に吸い込まれていくだけなんだな。


空って言うのはそういうのを何でも飲み込んで、溜め込んでいるみたいに、分厚くて晴れそうにない気味の悪い色をしていた。

 

「みなさん、遠いところ、良くぞここまで辿り着かれました」


ちょび髭のおじさんは焚き火を囲むぼく達の円に自然に加わっていて、ちょっと陽気な声を上げたりしていた。


「私、ジョルジュ・オブライト。この地で賄いをして、早、三十年になります。先日念願のオブライト姓を賜ったばかりなのではございますが、早速名乗らせていただいて折ります、恐縮です」


彼は口を極端に開けない話し方をしたから、ちょび髭だけがかさかさ動いて、僕はそれを見ているだけでくしゃみがでそうになった。


「見てのとおり、この地も、何時の日からか黒雲に覆われてしまいました。実は私、この辺境の地で働く決心を付けた理由が、みなさんがくぐったあの城門の監視台から眺望できる景色のすばらしさに心を奪われてしまったからなのです。ですから、黒雲がこちらに迫ってきたときは、腰を抜かすほど驚いたものです。私はこの土地にとどまる理由がなくなり、途方にくれていました。荷物をまとめて山を降りようとも思いました。が、私は気付いてしまいました。最後にと思って上った監視台から眺めた景色が、端から端まで閉ざされてしまっていることに」


ジョルジュと名乗ったちょび髭おじさんは、ちょっと身震いした後、嬉しいのか悲しいのかわからない声で話し続けた。


「目を疑いながら、目を、擦ったりぱちくりさせながら、私は黒煙の中に僅かでも隙間を見つけようとしました。ですが黒煙は燻した鋼鉄のように硬く、分厚く空を覆っていたのでした。私がその時をちょうど正午だと気付いたのは、目下の階段からこちらにライトが当てられたからなのでした。ジンタ老人の階段を照らし出すライトなのでした。あの方はいつも決まって正午にこちらに上ってらっしゃって、届けられた物資を運び、自分の食事もその時済ませていくのです」


ジョルジュは一層細かくちょび髭を動かし、話し続けた。


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