欲望
「ああ、あの子なら、後から来るそうだよ」
彼は僕をふかふかのソファーにゆっくり坐らせると、テーブルにおいてあった白ワインのラベルなんかをじっくり見てからそういったんだ。
嫌に時間をかける話し方をする人なんだな。
「おじさん、アンワルと知り合いなんだね?」
そう聞きながらも、僕は目の前に差し出されたスープに意識が行って仕方なかったな。
「僕、彼と知り合ってまだ間もないんだ。だから彼のこと、もっとよく知りたいなって思ってる。だってそうだろ? 彼のめがねがどうしてあんなに真っ白になっているか知りたくなるじゃないか」
ちょっと面白くなっていたんだけど、おじさんはなんだかせわしなく動いたり、天井や部屋の隅なんかを見たりなんかして落ち着かなかった。
それで
「さめないうちに食べなさい」
なんていいながらその真っ赤に染まったスープを奨めるんだ。
「そうだ、あの子は、君が先に食べていてくれていいって言っていたよ」
なんて腰に手を当てながら言うんだな。
お腹は勿論空いていたし、冷たく硬い地べたに長い間坐っていたからお尻の感覚がなくて、とても疲れていて、部屋が暖かい所為もあったんだろうけど、びっくりするくらい眠くて、目の前のスープを飲めばよく眠れるに違いないって思ったね。
でもそれを口にするのはちょっと嫌だったんだ。
「温まるから、体の内側から温まるんだよ」
なんておじさんは意味深な笑みで言ってくれるんだけど、僕はその真っ赤なスープをどうやら飲みたくないらしいんだ。




