表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/110

新しい一日が始まる

ママは僕が自分の名前を自分で書けるようになった頃にいなくなっちゃったんだ。


ママと最後に会ったとき


―――勿論その時はそれが最後だなんて思っていなかったんだけれど―――


ママは


「サルバドール、あなた、ランのことが好きでしょ?」


なんて訊いてきた。


僕はそういうのが苦手なんだ。


だから変に照れて、

好きなもんか

なんて本心じゃない言葉が口から出ちゃったんだな。


いつものことなんだ。


僕は意地悪っていう病気も持っているのさ。


そんな時は、必ず唇が痒くなる。


ランっていうのは僕の女中なんだけど、はっきり言って超能力者なのさ。


僕の考えることなんて一時間も前にわかってる。


僕がミルクを飲みたいと思う前にミルクの粉をお湯に溶かしていたりするし、少し眠れないと直ぐに寝室に入ってきて絵本を読んでくれる。


そんな時、僕は恥ずかしくってランを見られないんだ。


だから鼻まで毛布を引き上げて、ランの伸び始めた髪を留めているカチューシャを見ている。


ランはカチューシャを三つくらいしか持っていないんだけど、どれも控えめで僕の好みなんだ。


それで気付いたらランは絵本を読むのを止めているのさ。


僕が少し怖くなって見上げると、突然優しく抱き締めてくれたりする。


僕は結局、これがしてもらいたかったんだな、正直に言えば。


ランの細くて冷たい指が僕の肩と肩甲骨の間の窪みに埋まり、彼女の息が僕の頭にほんの少しだけ掛かったりする。


多分ランは目を瞑っているんだ。


だから僕も目を瞑る。


ランは僕が眠るまでそうしていてくれる。


だから僕はそんなランが好きでたまらなかった。


疑いようもないだろう? 


でも僕は

「好きなもんか」

なんて言っちゃうんだ。


それは、ランが直ぐ後ろにいる時でもね。


だからそんな時、僕は必ず片眉を上げ、素っ気なく唇をかくようにしているんだ。


だって、そうすれば僕が本当はそんなこと思っていないってことがわかるだろう?


でもママにはそれが通じないんだな。


多分ランはその時、僕の見えないところで僕のサインを受け取って、楽しんでいたりしていたんだと思う。


けど、ママには僕の言葉が全て真実のように聞こえてしまうらしいんだよ。


飛び切りよく言えば、正直ってやつなんだな。


でもママだって僕に質問をしておいて、その質問に別の意味を隠していたんだ。


勿論、僕は、その質問に二重の意味があるなんて気付きもしなかったよ。



疑いもしなかった。


だって、ママは、普段はそんなことするような人じゃなかったんだから

僕と違ってね。


でもその時はそうしたんだよ。


そしてその次の日


僕がベッドから起きると、もうママの姿はどこにもなかったって訳なのさ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ