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えーの始まり

僕は町から車に乗せられて、次に船に乗せられて、その次には馬車に乗せられた。


その間僕には何の自由も許されていなかったんだ。


本当なんだよ。


信じちゃもらえないだろうけどさ。


僕はそれぞれの乗り換えのとき以外、景色もろくに覗かせてもらえなかったんだ。


移動中は荷台に乗せられて蝙蝠の形をした蝋燭の燈と、それに照らされた真っ黒な外套を全身に覆った付き添いの人たちの陰っぽい表情以外は何も見えなかったし、乗り換えの時だって、付き添いの老婆の外套と前を歩く人の背中に遮られて、その隙間からしか景色なんか見えなかったんだ。


どっちにせよ景色ったって、精々、縞々の棒みたいなもんさ。


だから僕はそんな時、決まって空を仰いだ。


本当に短い時間だったけど、空を仰いだんだ。


今気付いたんだけど、どう言う訳かそんな時は、決まって夜なんだな。


それで、何時だって晴れていた。


雨が多い時期だったんだけど、偶然その合間に僕の引越しが敢行されたんだと思うよ。


だからそれは、夜だってのに、こっちが嬉しくなっちゃうほど明るいのさ。


勿論、老婆の外套に隠されて景色は長方形に切られていたし、月だって見えたもんじゃなかった。


老婆は僕の二倍くらいの背丈があったんだからね。


でも僕は諦められなかったんだ。



嘘。



実は僕、落ち着いていられない病気を持っていたんだな。


それは今だって変わらないけどさ。


それでやっぱりじっとしていられなくて、隙をついて老婆の外套を潜ろうとしたりした。


仕方ないんだ。


病気だからね。


ママがそう言ってた。


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