恥ずかしくなるくらいの
「坊や、腹が減ったじゃろう? これでも食っとき」
とおじさんがいった。
その手には、湯気が立ちこめるスープがあった。
僕は中に入った鳥かなんかの蕩けた肉を見ながらその皿を受け取ったんだ。
「お前、寝てるときにだって、お前、腹がなっていたんじゃから」
少年はそういってはしゃぐんだけど、僕は眼鏡に夢中なのさ。
今にも水滴が垂れてきそうなんだ。
「こら、飛び回るんじゃない。アンワル、わしとの約束を言ってみい。わしとの約束だ」
アンワルといわれた少年を見ながら、おじさんはちょっと大げさに怒って見せるんだ。
「わかっとるよ、ティラード。ここでは飛び跳ねたりなんかしない。悪かった。ねえ、悪かったよ」
そういいながらアンワルはティラードといわれたおじさんを見ていないように見たんだ。
ちょっとバツが悪いのを隠したりなんかしてさ。
僕は二人のやり取りを見ながら、渡されたスープを夢中で口に運んでいた。
恐らく生まれてこの方、あんなに美味しそうなスープにはお目にかかったことがなかったんでね。
僕は食事に対してそれほど興味を抱いたことがなかったんだ。
だって、それまでは、お腹がなることすらなかったんだもの。
何かを欲しいと思えば、殆ど我慢なんてしていなかったんだ。
一日に七回くらい食事を取っていたし。
だから僕が家を追い出されてここに来る間、少なくとも何回かは食事を抜いていたんだな。
「おいしいよ。おばさん」
スープを一気に飲み下して僕はそういった。
実は、本当はおいしくなんてなかったんだな。
なんだかとっても味気ない気がしたんだ。
それでも僕は、うまく言えないけど、おなかに液体が流れ込む感動みたいなものに気付けたのさ。
サミーラは僕に背を向けて、なにやら身支度をしていた。
「おいしいだなんて、全く、そんなお世辞、どこで覚えたんだい?」
なんだかとっても無愛想にそういうんだけど
「アンワル、あんたも坊やを見習いな」
なんていったりするんだな。
身を捩ったりなんかしてさ。
怒っているんだか、嬉しがっているんだか、なんだかよくわからない人なんだ。
三人に阻まれて室内の全容は、直ぐには把握できなかったんだけど、どうやら筒状になっているらしかった。
結構お洒落ではあると思うよ。
それに、いたるところによくわからない管の類が通っていたし。
ティラードはそこに坐っていたんだけど、暫くしたら自分もサミーラみたいに身支度し始めた。
それで、二人で部屋の中ほどにあった梯子に足を掛けたんだな。
「おい、アンワル、それに、坊やもだ。よく聞けよ」
ティラードが怒鳴るんだ。
よく声が響く部屋なのにね。
「おれ達は、もう行かなくちゃならない。アンワル、もし坊やが動けるようになったら、おれ達を追いかけるんだ。わかったな」
なんとなくティラードの声が厳しく聞こえたよ。
それで最後に
「サボったら承知しねえぞ」
って声がして、梯子がきしみ始めた。
サミーラが一瞬輝いた。
嫌に重い金属音が鳴ったと思ったら、三回くらい反射した光―――多分陽の光だった―――が彼女を照らしたんだ。
サミーラはひどく痩せっぽちで、それなのに頬肉が無駄に垂れていた。
それだけは見て取れたな。
でもすぐに消えてしまったんだ。
サミーラも梯子を上りだしたから。
それで光も遮られちゃった。
僕はサミーラが最後に、こっちに向かってはにかんで見せたのを知っていたんだけど、それより、やっぱり陽の光を浴びたかったな。
でもすぐに、も一度重い金属音がして、光は閉ざされちゃった。




