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恥ずかしくなるくらいの
僕にとって、笑顔って言うのは一種の嫌がらせの類でしかなかったんだ。
笑顔を浮かべている人の目は、黒いところしか見えなくなる。
そこに何か隠している気がしてならないんだな。
それに、そんな目はいつでもこっちを見ているようで、見当違いのほうしか見ていないじゃないか。
でもね。
目を覚ました僕を覗き込むその笑顔だけは、違ったんだな。
言っちゃ何だけど、恥ずかしくなるくらいに真っ直ぐだったんだ。
「目、覚ましよった。目、覚ましよったで」
その声はぼくじゃない誰かに向かって言われた。
だけど笑顔はこっちに向けられているんだ。
ぼくは頭がボンヤリして視界が定まらなかったな。
「よう寝たぞ、お前。何もせんと。おれはお前、お前そろそろ死んでしまうんでないかって思っとったくらいじゃい」
また違う声がそういうんだな。
僕は実は、結構いい気分でいられたんだ。
なぜって、その人たちは僕のことを、宝物を見つけたときみたいな顔で覗き込むんだもの。
「あたしゃ、こんな細いガキ、拾ってくるなんて関心せんね」
腕を組んだ中年くらいの人がそういうんだな。
でもその人も僕に気持ちのいい笑顔を向けていた。




