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浮遊する城

「あんなところ、どうやって行くっていうんだ」

ジェラールの声だった。


渓谷についた頃には、黒尽くめの人物達の監視がある程度ゆるくなっていたんだな。


「まさか、このまま突き落としちまうつもりじゃないだろう」


ジェラールの顔はフードに隠されて見えなかった。


でも、唇が捲れて歯がむき出しになっているのだけはわかったんだ。


恐らく、

怪我のせいなんだな。


「どうやっていくって言うのは、聞いてなかったんだね?」


僕はジェラールにそういった。

 

「ああ、おれが聞いたのは、精々噂話がいいところだ。確かなことなんて一つもない」


ジェラールは少し戸惑っているようだったけど、僕が大体の事情を飲み込んだことを理解したみたいだった。


「僕は早く暖かい毛布に包まって、気持ちよく眠りたいよ」


「全くだ」

とユダが言った。


「おれはワインを一杯やりたいね」


「ワインなんて飲むのかい?」


僕はユダにそう訊いたんだ。


冗談じゃなくてね。

 

「おれは、取り敢えず腹を膨らませたいな。もう腹が減りすぎて体が痺れてきてやがる」


ジェラールの声には、みんな賛同したよ。


勿論僕も、もうお腹の感覚がなくなっていたんだもの。


僕は笑いながらエゴールのやつを探していたんだ。


彼は一人でいて、他の誰とも一緒にいなかった。


ぼく達はそれほど自由じゃなかったんだけど、最低限集まることならできたんだ。


でもエゴールは一人で、時々ぼく達の方を見たりして、ぼくがちょっと手招きなんかすると、余計そっぽを向いちゃうんだな。


笑っちゃうよ、本当に。


ジェラールとユダが情報交換やなんかをし始めた隙に、僕はエゴールに会いに行った。会いに行くっていってもたったの十歩程度で着く距離だったんだ。


でも僕はエゴールとは話せなかった。


ぼくが彼に話しかけようとした瞬間、またあの、黒尽くめの人物達の銃剣の鉄が、チャッてなったんだな。


それは、ぼく達にとっては、一種の合図みたいなものになっていたんだ。


ぼく達はそんな時、列を作るか、さもなければその場で姿勢を正したりしなくちゃならなかった。


その時は、列を成すには時間がなかったから、みんなその場で姿勢を正して、近くの黒尽くめの人物を見た。


僕は彼らの銃剣の先を見ていたんだけど、彼らが見てもらいたいのはそんなところじゃなかったんだな。


何処かって、それは彼らが自然に退けられるように開いたスペースに、いつの間にか現れていた老人のほうだったんだ。


老人は笑っていたよ。


真ん中から二番目と四番目と七番目の歯が欠けているんだ。


頭が禿げ上がっていて、髭を顎の先端のところだけ伸ばしていた。


僕はその風貌を訝しんだね。


だって、その老人は、目の下に深いクマを浮かべて、笑いながら何にも口を開かずにぼく達のことをただじっと見定めていたんだもの。


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