浮遊する城
ユダの言ったことはあながち嘘でもないらしいんだ。
ほら、狂った世の中ってやつ。
僕なんかは何が狂っていて、何が狂っていないかなんてのは、正直さっぱりなんだ。
それでも、場内に入ったぼく達を待っていた光景には、流石に目を疑ったね。
その証拠に、最後尾の僕にまでみんなが息を呑む音が聞こえてきたんだ。
それほど辺りが静まりこんでいて、みんな盛大に息を呑んだんだな。
城門を潜ると、ぼく達はお城へと続く階段を上り始めた。
お城は山の頂上付近に隠れるようにあったね。
だから険しい階段を上らなければいけなかったんだ。
ぼく達が息を呑んだのは、山を刳り貫いて作られたみたいな階段の仕切り壁になんだよ。
階段は勾配がきついから曲がりくねっているんだ。
そういう時は、壁に手を添えてみたくなるだろう?
でも、誰もそんなことはしなかった。
つまり、
その壁って言うのが、鍾乳洞の、あの如何にも湿っている感じになっているんだな。
これは実は、飛び切りよく言っているんだぜ?
本当なんだ。
本当のことを言えば、
ナメクジの肌みたいにヌメヌメして、不確定で、触れれば吸い込まれてしまいそうなくらいだったんだ。
背筋に寒気を覚えたね。
よくわからないけど、その表面には無数に大小様々な気泡が出ていて、その幾つかから不気味な光が発せられているんだ。
それが何の光かは想像も出来なかったよ。
ぼく達はその得体の知れない不気味な光を頼りに、そこから発せられる異様に湿った生温い空気に耐えながら階段を上っていたんだ。
「おい、見ろよ。頂上が見えてきたぞ」
そういってユダは僕の肩を突っつくんだな。
僕は壁に触れないよう細心の注意払っていたんだけど、それとなく顔を上げた。
「あんなところ、どうやって行くっていうんだ」
視線の先には間近に迫った城壁があった。
驚いたね。
お城は浮いていたんだよ。
勿論これは言い過ぎなんだけど、初めて見たぼくにはそう思えたんだ。
正確に言えば、ぼく達がいるところと、そのお城の間には、極めて不自然な渓谷があったんだ。
ぼく達がいるところと、お城の高さは違ったし、城壁の周辺は霧が掛かっていたから、余計に浮いているって感じたんだ。
口を開けて見上げながら階段を上っていると、ヌメヌメした壁が段々背を低くしていったんだな。
それで、そろそろ階段が終わるって事に気付いた。
ぼくは清々していたんだけど、壁がなくなるに連れて気泡から発せられる光も弱くなってきてしまってね。
結局、上りきったときには、その光は全くなくなってしまったのさ。
でもぼく達は行方を見失いはしなかったんだ。
なぜって、別の光があったからなんだね。
ぼく達はちょっとした平野に出ていたんだけど、目の前には渓谷があって、その谷間から今までとは違う、青白くて鋭い光が突き上げていたんだ。炎のようにも見て取れたんだけど、その源は見つけられなかった。
僕は久しぶりに生きた心地を取り戻してその渓谷に近づこうとしたんだけど、一行はそこへはいかなかったんだ。
何しろ、渓谷には橋の一本も掛かっていなかったから、そのまま進もうとすれば一人残らず谷へ落っこちてしまうんだろうからね。
とにかくぼく達は不気味な壁がある階段を上りきり、渓谷のあるところまで来ていた。
そこで、今までは休むことも許さなかった黒尽くめの人物達が立ち往生し始めたんだな。
進もうとしないんだよ。勿論、進めなかったんだとは思うんだけど。




