仲間
崖を覗き込むと、やっぱり見えない底からボンヤリとした光と、ゆるい風が上がってきていた。
見たところつり橋の板はところどころ朽ちて欠けていて、それどころか、殆どがもうぼろぼろになっているようだった。
それで、その行き先には霧が立ち込めていて、縄がどこに繋がっているのかはわからなかったんだ。
そんな感じだから、ここをわたるには、結構な勇気が必要だなって思った。
でも、ぼくは渡ろうとしていたんだな。
それは、なんでかって言うと、やっぱり仲間ってのがすごいってことの繋がるんだよ。
「白黒順番は関係ない、ただし、一人ずつ渡るんだ」
クーベルタンはちょっと悲しい目をしたりなんかして、そういった。
ラバがつり橋の前に立ち、例の袋を取り出し、力いっぱい振りまいたんだ。
「ここには見えない石はないぞ」
クーベルタンの言葉のとおり、ラバの撒いた白い砂は、つり橋の間を敷き詰めることはなかった。クーベルタンはラバに蔓を持たせた。
それは彼の持ってきた袋に入っていたもので、いくつも結んで伸ばしていた。
彼はそれを自分の腰に巻いていた。
「俺が始めに行く。先に辿り着いたら蔓を引く、後はこれを頼りに渡ってくればいい」
そういった彼の手首には、白い縄があって、その間に蔓を通していたんだ。
クーベルタンは早々に第一歩を踏み出した。
でも、すぐにまたもとの大地に引き戻されてしまったんだ。
引き戻したのはジェラールだった。
「やはりあんたを初めには行かせられん」
彼はそういうと、どういうわけか、ぼくの背中に手を当てて、
「初めは、スミシー。お前が行ってくれ」
なんてことを言ってのけた。
ぼくは余りに突然だったから気が動転して、身動きひとつ取れなくなってしまった。
でもユダたちは反論のひとつもせずに固まったぼくに蔓を巻きつけたり、持っていた荷物を取り上げたりするのをすんなりやったんだ。
「どうしてぼくなのさ?」
ぼくはそう尋ねずにはいられなかったね。
「この中で一番体が小さいのはお前だろう」
ジェラールはみんなを見渡した跡、そういった。
言った傍からやっぱり背中を押されたんだ。
「大丈夫だ。もしお前が何処かで落っこちたって俺たちが引き上げてやる。安心して先に進むんだ」
「ご健闘をお祈りしています」
なんてツェッペリンはチャチャを入れるんだ。
「向こう岸に着いたら、まず蔓を引っ張るんだ。次に蔓を結べ。結べるところがなかったら続けて三度蔓を引き、その後は緩めっぱなしにしていろ。わかったな?」
何故か少しぎこちないクーベルタンは、ぼくにそう教えてくれた。
ぼくは大きくうなずいて見せると、みんなの顔を一通り見てから、つり橋に足を掛けた。
つり橋の板は想像以上に滑っていて、ぼくは第一歩から腰砕けになってしまって、恥ずかしい話、また見えない階段を渡ったときのように四つんばいの格好で進むことになった。
ちょっと後ろを振り向けなかったな。
振り向いたらきっとみんなの視線はぼくのお尻に集中しているんだろうな、なんて考えていると、少しばかり恐怖も薄らいだんだ。
板は搾った豆腐みたいで、今にも折れそうにしなったりして、代わりによろしくない香りを僕の鼻に届けた。
だからぼくは常に横を向いているしかなかったんだ。
それで、それが原因で、橋を踏み違えて、ぼくは下へ落っこちてしまった。
橋の下は直ぐ霧で、周りは全く見えなかったんだけど、しっかりと蔓がぼくを吊っていて、てこずりはしたけど、ぼくは無事、橋へ引き上げられた。
その後も何度かそんなことがあったんだけど、ぼくは無事に対岸へと辿り着けたんだ。
案外簡単にね。
そこはそのまま岩壁ってところで、何故か綺麗にくりぬかれた穴があった。
ぼくは暗くて何にも見えないその先に行く気にはなれなかったから、蔓を結ぶところを探せなかった。
だから言われたとおり蔓を三度引っ張ると、なんとなく冷たい地べたに座り込んだ。
どうやら、誰かが来るまでぼくは一人ぼっちなんだな。
ひざを抱えながらそう考えたんだけど、時折ゆれる蔓があったから、結構平気でいられた。
改めて思ったね、仲間ってやっぱりすごいんだなって。




