一人
一人で生きられる。
自分は一人で生きられる。
そういいきれる人は、本当に強い人なんだと思うよ。
砂漠を歩いて、何日も何日も歩き続けて、何が一番心を救ったかというと、夜、砂丘の頂上に立ったとき、ふっと現れる人影だったんだよ。
それはひょろっと伸びきっていて、まるでマッチ棒みたいなんだけど、ぼくが手を挙げれば答えてくれて、うれしくなって砂丘を駆け下ると、ふもとにはやっぱり何にもなくって、振り返ってみて、もう一回頂上へ上ってみようかとも思うんだけど、なんだか馬鹿らしくなって、担いでいた麻袋の中に包まって寒さをしのいで、水を一口含んで、含んだままやっぱり目の前にある陰ばっかりの砂丘を眺めて、登る気も起きなくってそのままひざを抱えて眠ったりしたんだ。
砂漠は何日も続いていた、ただ、暑くなかったから極力食料や水の消費は抑えられてたんだ。
それで、ぼくは時々見える湯気の方へ足を上げ続けた。
途中から砂丘はなくなり、変わりに周りより一段低くなっている、気のせいくらいに湿った砂地を辿った。
段の境目はなんだか重く変色していて、それが延々とゆるい曲線を描いていた。
ぼくはその変色した、歩きにくい部分にわざわざ乗って遊んだりした。
でも、そんなの、遊びって言ってしまったけれど、何にも面白くなくって、面白さを望んだのでもないんだけれど、やっぱり砂地のほうへ降りて歩いたんだ。
音といえば、麻袋がすれる音くらいしかしなくって、次第にぼくの頭の中には、カリプソおじさんのことだとか、ミスタ・レイクのことだとか、アンワルのことだとか、アンやママのことだとか、一連の出会った人たちのことが次々と浮かび上がってきた。
何にも考えない時間が長く過ぎて、今度は考えてばかりいる時間がやってくる。
それで、最後にいっつも思っちゃったことはといえば、もう誰も一緒にいてくれる人はいないんだなってこと。
みんな、好きな人は、いつでも会えて、話せて、ケンカして、仲直りできるんだって簡単に信じ込んでいたぼくには、その時、傍に誰もいてくれないって事実が突き刺さって、誰もいないってわかっているのに、晴れやしない空に向かって力の限り叫んだりもしたもんだ。
それで、何日くらい歩いたのかは忘れちゃったんだけど、気のせいだった湿り気が確かなものに変わってきて、何時しか足の親指が水に浸かっていることに気付いて、顔を上げると、結構近くに頭がぼさぼさした木が薄く植わっているのを発見した。
ぼくはその木まで全速力で走った。
そこはちょっと小高い丘になっていたもんだから、辿り着いたときにはちょっぴり息を切らしていたんだ。
それで、それを見上げて、見上げないか位のときに、とっても静かな音が聞こえてきて、木肌に手を沿わせたままで、ぼくはそっちに目をやった。
そこには、暗いのに白いってのがわかる波が岸を駆け上がっては、引き揚げて行ってる様が確かにあった。
ぼくは丘を下ると、ちょっと目頭を押さえたりなんかして、ついでに砂浜に腰を下ろした。
砂がいつの間にか色をなくして、ひどく滑らかになっていて、坐るときゅっきゅって小気味いい音がしたくらいだった。
ぼくは癖で、膝を抱えると麻袋をマント代わりに羽織って、顎を落ち着かせると波打ち際をボンヤリと眺めたんだ。
波の音は穏やかで、遠くでおっきな波が崩れていたりしたんだけど、そんな音は遠くでしていて、なんだか瞼が重くなってきて、次第に視界がボンヤリ定まらなくなってきたんだ。
それまでは一瞬で暗闇へトリップしていた感じだったんだけど、今回は、なんだか何時までもこんな穏やかな風景を眺めていたいもんだって思ったもんなんだよ。
雲が晴れかけているのはわかったんだ。
それで、綺麗な月が海を一層綺麗に照らして、波のしぶきなんかも喜んでいるようだった。
そんな時、ぼくが眠ってしまうかそうでないか、少なくともその直前、綺麗な月を塞ぐ陰が目に映ったんだ。
でもぼくはひどく疲れていたし、安心しきっていたんだから、結局はその陰に声も掛けられず、眼を瞑ることになってしまったんだよ。




