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老いた英雄は栄光の道を逆走する  作者: 昼熊
二章

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交渉力

「おや、掃除は済んだのですか。まだ準備体操が終わったところですよ?」

「えー、まだ暴れたりないー。体が温まってきたところなのに」


 暴力師弟があとからやってきて物騒なことを口にした。

 服に所々赤い点があるのは相手の返り血か。本人たちは無傷で元気が有り余っている。


「この奥の部屋にギルド職員ともう一人親玉っぽいのがいる。あと、それなりに腕が立ちそうな気配が二つだ。よかったな、カモが残ってんぞ」


 背後の通路を指すとバージンとシエルが満面の笑みを浮かべた。あれは、まだまだ暴れられると喜んでいる顔だ。

 ……護衛の対応は二人に任せるか。

 廊下を進みながら気配を探る。奥の部屋の扉脇に二つの気配。窓際で落ち着きなく揺れている残りの気配。

 俺は気配を察知する能力に長けているが、他の仲間はそれ程じゃない。だが、この程度の距離なら俺以外でも容易に感じ取れる。

 部屋の扉前に到達する直前、バージンは足を止めると、ためらうことなく扉脇の壁を殴りつけた。


「なっ⁉ なん――」


 壁のはじけ飛ぶ轟音に男の叫びがかき消された。

 拳の一撃で壁に空いた大穴の向こうには、顔が恐怖と驚愕に染まった二人の男がいる。身を寄せ合ってガタガタと震えているが、男同士の抱き合うシーンなんて誰得なんだ。

 一人はギルド職員だが、もう一人のやたら派手な男が、おそらく親玉か。

 全部の指に特大の宝石が付いた指輪。希少な魔物の革で作ったコート。立派な口ひげに葉巻。わかりやすい金持ち像をしてやがる。

 その姿で鏡に映った際の痛々しさに、はっと我に返ったりしないのかね。


「ノックが少し大きすぎましたか」


 バージンが今更ドアノブを掴んで開くが、支えを失った扉はあっけなく外れて手にぶら下がっている。

 扉を投げ捨てたバージンと一緒に堂々と入室する俺たち。

 不意打ちをかます予定だったはずの護衛が壁の瓦礫の中からなんとか立ち上がり、もう一人は呆然と立ち尽くしている。

 吹き飛ばされた方はボサボサの頭に無精髭だらけで、さっきよりもチンピラ感が強い男だ。薄汚れた革鎧に足下に転がっているのは柄の短い槍。

 もう片方の護衛が、自分の仕事を思い出したようで我に返ると、抜き身の剣を振り上げ襲いかかってきた。


「ちょいやーー!」


 その刃が振り下ろされるより早く、割って入ったシエルの跳び蹴りを男が寸前で躱す。


「おっ、なかなかやるじゃない! 少しは楽しませてくれそうじゃなーい、のおおぅ⁉」


 妖艶に微笑み、興奮状態で息が荒いバカ弟子の後頭部を叩いておく。

 弟子に任せるのは、ちょいと荷が重い相手だ。


「どっちが悪党かわかんねえ発言はやめろっての。ほら向こうさんも戸惑ってるだろ」

「女の子がそういう発言をするとはどうかと」

「あっちの方がまともやん。恥ずかしいわー、ごめんなさいね。この子ってばいつまでたってもやんちゃで」

「もう、謝られたら恥ずかしくなるからやめてよー」


 真面目な顔で注意する護衛。それを見てスマイルが大きなため息を吐く。なぜか照れるシエル。

 なにやってんだ、こいつら。

 冷静なツッコミを入れた無傷の護衛は金属製の鎧を身にまとっているのだが、汚れ一つなく磨き上げられていた。

 それに後ろに流している前髪も塗料でぴっちりと固められていて清潔感がある。

 さっきまでの連中と違って、言葉づかいや態度も含めて気品を感じる。騎士崩れか?


「お前ら、呑気に話し込んでんじゃねえぞ! さっさとそいつらを殺せ! てめえもいつまで寝てんだ!」


 親玉っぽいのが騎士崩れと、吹っ飛ばされたチンピラ護衛に怒鳴り散らしている。

 騎士崩れは鼻で笑い、もう一人は唾を床に吐き、体の汚れを手で払うと渋々剣を構えた。

 その動作一つで親玉を嫌っているのが露骨に伝わってくる。


「おいおい、部下に好かれてねえなー。ちゃんと給料払ってんのか?」

「そういうとこ、ちゃんとせなあかん。悪党が悪党をまとめるには金しかないんやで。金払いの悪い上司なんてただのクソや」

「女の子がそいう下品なことを言ったらあかんよ」


 汚い言葉を吐いたスマイルがリトルに咎められて困り顔だ。


「はっ、うちは実力重視の出来高制だ! 金が欲しけりゃこいつらを殺せ! 貧乏人の貴様らにいくら金を出していると思ってんだ!」

「へいへい。世の中金金。世知辛い世の中だぜ。上司は最悪だけどよ、金のために働きますか」

「皆様に恨みはありませんが、私は根っからのギャンブル好きでして。いつもお財布事情が厳しいのですよ。このようなクズの手下になるなんて最悪ですが」


 愚痴を口にしながら俺たちの前に立ちはだかる二人。

 そんな護衛の態度に怒り心頭といった感じだが、何も言わずに口を噤む親玉。その実力は認めているってことか。

 護衛は二人とも忠誠心なんて欠片もなく、金のために雇われているだけっぽいな。なら、やりようはいくらでもある。


「この世界は金さえあれば思いのままだ。金がすべてなんだよ」

「すべては言い過ぎやけど、言いたいことはわかるわー」


 おい、スマイル。大きく頷いて理解を示してんじゃねえぞ。


「唐突だが、あんたら、いくらで雇われてんだ?」


 質問の意図が読めないのか、護衛の二人が顔を見合わせた。

 首を傾げながらも、騎士っぽいのが指を四本立て、もう一人が三本立てる。


「はあああっ⁉ おまえ、俺より多くもらってんのかよ」

「見た目は醜く肥えた節足動物のようですが、鑑定眼だけは認めてもいいですね」

「お前、何様のつもりだ。俺は一応雇い主だぞ……」


 自分の方が多くもらっていることを知った騎士っぽいのが自慢気に胸を張り、それを悔しそうに睨み地団駄を踏むもう一方。その背後でなんとも言えない表情をしている親玉。


「ちなみに年間契約とかか?」

「くっ、俺を低く見積もりやがって。……ああっ? ちげえよ、一週間だけ臨時で雇われただけだ。金払いがよくなけりゃ、こんなゲス野郎なんて相手にしねえよ。ったく、俺の方が腕が立つだろ」


 査定に納得いかないようで、まだぶつくさ不満を口にしながら答えた。


「私も一週間だけ渋々雇われています。既に貰った金を使い切ってしまったので契約は契約ですし。まったく、こんなのの側にいたら変な臭いがこびりつきそうで、困ったものです。ちゃんと毎日お風呂入ってます?」


 なんか、親玉が哀れに思えるぐらい散々な評価だ。どんだけ人望ないんだ、こいつ。


「そ、そこまで言う必要はないだろ……。仮にも雇い主だぞ。もうちょっと忖度とか……」


 親玉が俺たちに背を向けてぶつぶつ言い出した。あーあ、いい大人がいじけてる。

 隣にいるギルド職員はどうしていいかわからずに、あたふたしているだけか。これは交渉の余地がありそうだな。


「ちなみに、そこの悪趣味成金ゲス野郎が何をやっているのか知っているのか?」

「あれだろ、人の足下を見て小汚い真似をして金を稼いでいるって噂の商人様だ。部下たちも誰一人尊敬してないんだぜ、笑えるだろ」

「他人の弱みを握って金貸して、エグいぐらいの金利ふっかけて、奴隷売買もやっているようです。ハッキリ言って、町中の嫌われ者ですね」


 侮蔑を込めて吐き捨てるように言われた当人は、うつむいた状態でプルプルと震えている。


「お前ら言い過ぎだぞ。ほーら、泣いちまったじゃねえか」

「怒っておるのだ! 雇い主に対する暴言の数々、許されると思っているのかっ! 金が欲しくないのかっ! 無駄口を叩いてないでさっさと殺せ!」

「へいへい。金の分は働かせていただきますよっと」

「違約金もありませんしね」


 なるほど、これで次に打つべき手は見えた。


「嫌われたもんだな、お前さんも。だが、こいつはてめえらが思っている以上にゲスで最低だぞ。なんせ、子供の奴隷売買もやっていたからな」

「マジかよ?」「本当ですか?」


 にわかには信じられないようで、同時に疑問を口にした。

 実は知っていてとぼけている……といった感じはしない。


「っ…………」


 二人から同時に睨み付けられて黙り込む親玉。

 いや、黙るなよ。沈黙は肯定と同じだ。


「そんな悪党に手を貸してると、お前らも捕まっちまうぞ。知ってっか? 牢屋ってきっついんだぜ。夜と早朝の冷えが酷くてよ、床もかてえし。寝床もしょぼいから目が覚めたら腰と肩が痛いのなんのって。しょんべんが近いってのによ、牢の中にトイレがありやがるんだぜ。臭いがくせえし、中腰がきっついし」

「話が長い! あんたの実体験はどうでもええっちゅうねん。あと、どさくさに紛れて逃げようとせえへんの」


 俺の貴重な体験談を邪魔したスマイルが銃を取り出すと、引き金を引く。


「ひいいいいっ!」


 目の前で煙を上げている銃痕を見つめ、腰を抜かす親玉。


「もうちょい右に撃てよ」

「当てる気はあらへんし。こらこら、動かへんの」


 会話中に逃げだそうとしていた二人の眼前をかすめるように弾丸が通り過ぎていく。

 こいつらも懲りないねえ。


「さてと、無駄話はそろそろやめて本題といくか。そこの護衛二人、違約金も払ってやるし、それとは別に依頼料を倍払うからこっちにつかねえか?」


 このままだと話が進まないので、こっちの要求を直接口にする。

 論より証拠とばかりにギルドで受け取った小袋を取り出して、その中身を見せつけた。

 覗き込んだ二人は顔を見合わせると、タイミングを計ったかのように同時に頷く。


「「わかった」」

「おい、バカ! 即答するな! なに笑顔で握手してんだ、裏切り者! こいつが嘘を言っているとは思わんのかっ!」

「お前の方が胡散臭いし」

「同意します」


 親玉が唾をまき散らして何か言っているが、二人も俺も聞く耳を持たない。

 予想以上にあっさり裏切ったか。無駄な体力を使わずに済んだな。


「じゃあ、俺からの依頼を訊いてくれるか。そこのオッサン二人を捕縛してくれ」

「了解」「わかりました」


 怯える二人を問答無用で縛り上げている。

 無事に解決してなによりだ。


「えっ、この拳の行き先は……」

「殴り足りない……」


 拳を握りしめぶつくさ言っている物騒な輩は無視するとしよう。

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