悪党の処分法
見るからに怪しい職員はギルドの裏口から出て行くと、辺りを見回しながら裏路地を進んでいる。
周囲を警戒しているようだが、あんな素人に尾行が見つかるほど間抜けじゃねえ。
「露骨に怪しいわー。怪しすぎて逆に怪しくないぐらいやわ」
「不審者を絵に描いたような行動してるからな」
職員は汗をにじませながら小走りで移動し、荒い息を吐きながらギラついた目で周囲を見回す。胡散臭いなんてもんじぇねえぞ。
一定の距離を保ちながら跡をつけていると、路地を抜けた先にあった日当たりの悪い敷地に建っている屋敷に入っていく。
二階建てで造りは立派なんだが、外壁が剥がれ落ち至るところが薄汚れていてボロボロだ。長年誰も利用していない廃墟のように見える。
「いかにも、って感じだな」
悪党の隠れ家としては定番中の定番だ。
「入り口に見張りっぽいのが二人いますね。軽く言葉を交わしていたところから察するにお知り合いのようです。どうします、突貫しますか?」
バージンが服の袖をまくり腕の筋肉をアピールしてきた。
筋肉馬鹿を放して暴れさせたら一瞬で終わるのは確かだ。
「捕まえたところでしらを切られたら、どうしようもねえだろ。ちゃんと証拠と証言を集めて……」
「師匠、そんな面倒なことなんて必要ないよ! 叩きのめしてから吐かせればいいんだって! 悪党と仲のいいやつは悪党! 突貫、粉砕!」
「さすが我が愛弟子。いいことを言いますね! 清き子供を売り物にするような悪党は即排除。邪悪に振るう暴力は制裁だと神も仰っています!」
人の話を最後まで聞かずに、筋肉馬鹿コンビが飛び出していった。
俺は止めようと手を伸ばしたが時既に遅し。二人は全速力で見張りへ突進している。
「はああああぁぁ、真面目に考えていた自分がバカみたいだぜ」
「しゃーない、あきらめや」
同情したスマイルが肩に手を置き慰めてきた。
今更どうしようもないので、残された俺たちは冷めた目で現状を傍観するしかない。
「うおおおおおおっ!」
「悪党に鉄槌を!」
奇声を上げながら迫る金髪の女子と聖職者の大男。
それを目の当たりにする見張り二人。目を限界まで見開いて、大口を開けて間抜けな面を晒している。……かわいそうに。
「血走った目をした女とムキムキが走ってくるぞ!」
「な、なんだ、てめえら! と、止まりやがれ! これ以上近づくなら、腰の剣が黙っ――」
「といやあああっ!」
「ふぬううううっ!」
へっぴり腰で剣を構えた見張り二人の顔面に足裏と巨大なこぶしが激突した。
重力を無視して地面と平行に滑空する見張りが、屋敷の扉をぶち破りそのまま中へ転がっていく。
「な、なんだ! 何があった!」
「ガキと……聖職者? ど、どういう組み合わせだ!」
「対立組織の頭のおかしい殺し屋か⁉」
狼狽して叫ぶ声がこっちまで響いてくる。ちなみに「頭のおかしい」は正解だ。
それからは屋敷から聞こえてくる悲鳴と怒号。
残された俺たち三人は惨劇から目を逸らしながら、遅れて侵入する。
玄関先のロビーには無数の小汚い男たちが転がっている。一撃で失神させられていて、見たところ死者はいないようだ。
「聖職者が、聖職者が笑いながら殴ってくるううううっ!」
「血まみれのいかれた女がそっち行ったぞ! うぎゃああああ!」
「盾に攻撃がかすったらキレやがった!」
奥の廊下から響いてくる悲鳴をかき消す破壊音。
元気に暴れてんなー。
「ふははははは、逃げても隠れても無駄ですよ。私のアブミ骨筋から逃れる術はありません」
「よくわからないけど、さすがです、師匠!」
バージンとシエルの心底楽しそうに話す声が耳に届く。
ツッコミ役がいないと、どうしようもねえなあいつら。
「アブミ骨筋ってなんなん?」
スマイルいい質問だ。俺も同じことを訊いたことがある。
「耳の鼓膜付近にある筋肉らしいぞ」
「えっ、そんなところも鍛えられるん?」
「当人曰く、筋肉であればどこでも鍛えています。だそうだ」
「バカも極めると凄いんやね」
「同感するぜ」
本当に鍛えているのかどうかは知る術はないが、俺たちの中で一番聴覚が優れている事実を踏まえると……人の体って不可思議だな。
そんなことを考えながら、俺は周囲の気配を探っている。
爆音の発生源である二人の元に次々と集まる気配。その流れからこの屋敷の間取りが大体は把握できる。
一階の気配はすべてバージンたちに向かっている。二階の気配は一ヶ所にまとまっているのと、少し離れた場所に強い気配が二つにそうでもないのが二つ。その内の一つはギルド職員のものだ。
「どこにおるかわかった?」
「二階の角部屋だな。ちょい強そうな護衛が二人。それとさっきの職員ともう一人いやがる。たぶん、それが本命じゃねえか」
廊下で気絶している野郎共をまたぎながらスマイルに説明をする。
しかし、俺が気配を探っているのがよくわかったな。
「ふむ、では一階はあやつらに任せておいて、わしらは二階へと行くとするかのぅ」
ずっと黙ってあめ玉をなめていたリトルが、杖の先端で二階へ続く階段を指す。
あの二人は囮として放置しておいて、あとは俺たちがやっちまうか。何もしないってのも体がなまるしな。
「そうすっか」
「ちっとは運動せんとあかんしな。よう動いたらご飯もおいしくいただけるし」
俺を先頭に幅の広い階段をゆっくりと上っていく。
階段の終着点で待ち構えている、十数名のごろつき風の男たちが武器を構え見下ろしている。
俺たち三人の姿を見て露骨に安堵の表情を浮かべた。
まあ、背後から響いてくる奇声と悲鳴と爆音の主を相手にするよりは、楽だと思っちまう気持ちはわかるぜ。
今も後ろを数名が吹っ飛んでいったからな。それを目撃した連中の顔から冷や汗が流れ落ちた。
その中で唯一、強気の態度を崩していない男がいる。ボサボサの髪と目つきの悪さ。頬に大きな切り傷。どっからどう見ても堅気には見えない風貌だ。
鎧と手にした剣も他の連中と比べて、かなりいい物を使っている。
「お前ら、そこで止まれ! 動くんじゃねえ! 命は助けてやるから、あっちで暴走しているのをどうにかしろ!」
一人落ち着いているかと思ったら、精神はギリギリだったか。
偉そうな物言いだが怯えながら命令されても説得力がない。
「すまんが、無理だ。ある程度暴れたら落ち着くんじゃねえか」
「あとは、お腹空いたら大人しくなるで」
「かんしゃくを起こした子供かっ!」
俺とスマイルのボケに対し、素早くツッコミを入れてきたな。
「あー、一つ提案なんだが。死にたくなかったら大人しく道を空けろ」
抑えていた殺気を放出して、一睨みする。
こいつとは会話を楽しみたい気持ちもあったが、時間をかけるとあいつらが追いついてくる。それに楽しみすぎて本命に逃げられたら元も子もない。
「なっ!」
「ひいぃ」
俺の殺気に吞まれて腰砕けになったのが半分ぐらいか。残りの半分は怯えながらも構えを解かない。リーダーらしき男は少し怯んだ程度か。
「あんたも、あの暴れてるアレも化け物級かよ」
「おっ、ちゃんと実力が読み取れているじゃねえか。命が惜しいなら逃げていいぞ」
あっちに行けとハエを追い払うように手を振りながら、一歩一歩ゆっくりと階段を上っていく。
俺が一段上がる度に連中が一歩後退る。
もう一押しすれば道を譲りそうだったのだが、そこで足を止めてこっちを睨んできた。
「逃げたいのは山々だが、てめえらを見過ごしたら組織から始末されちまう。どっちにしろ死ぬだけだ。それに拾われた恩義もある」
こういった組織で上の人間を見殺しにしたとなれば処分は免れない。ここで死ぬか、後で死ぬかの差か。悪党に情けを掛ける気なんて毛頭ないが、この連中には違和感がある。
怯えてはいるが武器の構え方が堂に入っている。我流ではなく正式な剣技を習った者のそれだ。
あとは経験則による年寄りの感なんだが、こいつらからは犯罪臭がしねえ。完全に汚れた者が放つ独特の気配を感じさせない。見た目はチンピラそのものだが。
「拾われたってことは戦場上がりの元傭兵か脱走兵ってところか」
「想像にお任せするぜ」
一瞬、眉尻が動いた。どうやら、図星のようだ。
「組織の報復か。その心配はいらねえぞ。今日、この場で組織は壊滅するからな。その奥の部屋にいるのが親玉なら、だが」
カマをかけてみたが、否定も肯定もしねえのか。
「……だとしても、食い扶持がなくなっちまったら困るんだよ」
「じゃあ、就職先を斡旋してやるよ。取りあえず、目が覚めたら考えておいてくれや」
言い終えると同時に軸足に力を込め、一気に階段を跳ぶ。
会話を一方的に打ち切って実力行使に来るとは思ってなかったのか、無防備な面を晒す連中の顔がそこにあった。
慌てて対応しようとしているが、瞬き一つする間に全員を気絶させる。
実力差がある状態で萎縮している相手に不意打ちをすれば、ざっとこんなもんだ。




