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四時限目 会長さんに出会いました(その1)

本日更新分1話目


――同日、放課後

――稜明高校内教室棟三階廊下




「うーむ……」


 部活名が書かれた手元のメモを見ながら、俺は唸っていた。

 一応ここまで一通りリストにある部を見学させて貰ったわけなんだが、どれもどうにもしっくり来ない。

 文学部は……そもそも本を読むのが好きじゃないから却下。別に嫌いじゃないんだけどな。

 天文部も、別に星に興味はない。物理部や化学部は、名前だけ聞いて少し期待しながら部室に行ったんだが……

 部室には誰も居らず、どうやら名ばかりでまともに活動してはないらしかった。

 吹奏楽部はまず無理だ。楽器を買う金を捻出するのは現在の我が家の経営状況を分析するに、難しいし、どうしても入りたいというほどのやる気もない。

 他の部も覗いてはみたが女子ばっかりだとか、居心地悪そうだったりだとかで食指が進まない。


「なんだかなぁ……」


 というわけで、今こうして頭を悩ませて居るわけなんだが。

 どれも俺の中ではイマイチな印象で決めきれない。どうせ幽霊部員になることは確実なんだから、どこでもいいじゃないか、と思わないでもないんだが、どうせなら居心地の良い所に所属したいと考えてしまう。


「……」


 ふと窓から校庭を見下ろせば、まず目に付くのが野球部。グラウンドいっぱいに広がって懸命に練習している。それなりに距離が離れてはいるのだが、気合の入った掛け声がここまで届いて来る。深音が言うには、野球部、サッカー部など、いわゆる「メジャー」な球技はみんな特待生で構成されてるらしい。みんな将来的にはプロ選手(子供の頃の夢)を目指しているだから地方大会、全国大会への出場は最低限の目標で、だからこそ結果を残すために、夢を叶える為に必死になっているんだとか。

 他にもグラウンドの隅で色んな運動部が活動しているが、そっちはどう見ても遊びに近い。それなりに練習はしているが、本気度がまるで違っているのがここからでも分かる。だが気分転換に体を動かすには良いんだろう。ウチのクラスの連中の顔も見えたが、授業中とは打って変わってその顔は随分と楽しそうだ。

 俺自身もグダグダと頭を使うよりは体を思いっきり動かす方が性に合ってる。俺もそっちに混じりたいが――。


「……痛っ!」


 左腕を上げていくと、瞬間的に腕を貫かれた様な痛みが走った。脱力した後も腕全体に疼痛の様なものが残って痛怠い。思わず肩を抑え、何とも言えない寂寥感に襲われた。


「淳平にはワリィけど……」


 まだ、ハンデを受け入れる気分にはなれねぇな。そう呟いて俺は足元に落ちたメモを拾い上げた。


「さて、と……」


 いつまでも悩んでいても仕方ねぇ。まあ決めるまで一週間あるんだし、とりあえず今日はメモの部活を全部見て回って、家で落ち着いてゆっくり考えてみるとしよう。


「で、後残りは……コンピュータ研だけか」


 コンピュータ研の上に「漫研・アニ研」の文字が見えるがそこは意図的に無視だ。放課後まで深音に弄くられるなんざゾッとしねぇ。

 さっさと見学してしまおうとコンピュータ室に向かって歩きながら何気なくメモを眺めていたんだが、ふと俺はその更に下に手書きで「生徒会」と書かれているのに気づいた。


(生徒会って……部活動扱いなのか?)


 俺の中の常識では全然別モンなんだが。それとも誰かが凛ちゃんのメモにいたずら書きでもしたのか?

 まあ、いいか。


「どうせ生徒会なんて面倒な役割はゴメンだからな」


 それこそ組織の運営だとかそういうのに興味がある奴がやればいい。生徒会なんざ所属しちまえば、それこそ幽霊部員なんざ許されないだろうしな。遊びじゃあるまいし、そんな適当な事は許されまい。であればハナっから俺は除外されるべき人間だ。例え俺が入りたいと思ったとしても向こうからお断りをありがたく頂戴するだろう。


「……っと、ここか」


 ンな考え事してて危うく通り過ぎかけた。ドアの上に「PC室」と書かれたプレートを見つけ、その下に「コンピ研部室!」と何とも達筆な筆文字で書かれたプレートが下がっていた。


「……」


 少々顔が引きつるのを自覚しながらマジマジと見てみれば、おまけにその下には鉛筆でノートの切れ端に書かれた様な感じで「生・徒・会・室!」とも書かれている。俺は頭を掻いた。どっちだよ。


「……まあ、いいか」


 入る気は無いが、自分の学校の生徒会がどんな面子で構成されているのか確認しておくのも悪くは無かろう。ただでさえ変な時期に入学して目立ってるからな、俺は。挨拶くらいはしておくか。


「すいませ~ん、見学……」


 ギロッ!!


「け、けんが、く、したいんですけど……」


 ドアを開けて入った早々にガン付けられた。俺が何をした。

 気圧されながらも一応俺の意思は伝えたはずなんだが、部屋に居た四人とも誰一人として俺に関心を示すことはなかった。

 窓には遮光性が最大のカーテンが引かれて、良く見てみれば入り口のドアのところにも黒いカーテンが引かれてあった。おかげで部屋の中は昼間だというのに真っ暗だ。そのせいで中央に置かれたモニターからは煌々と明かりが煌めいていて、不気味な程に部員らしい連中の眼鏡を薄暗く照らしていた。


「ぐふっぐふっぐふっ……」

「クク、ククククク……」

「うふ、ウフフフフフ……」


 訂正だ。不気味なのは部屋がどうこうじゃなくてこいつらのせいだ。よくよく確認すると全員ヘッドホンを付けていて、どうやら集中してパソコンで何かをしているらしい。部屋に入ってきた俺に気づいていないのか、モニターとキーボードから一切離れようとしない。


「あ、あの……」

「ぶぅらららぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっしょぉぉぉいっっっっっ!!!」

「ひぃぃぃっ!?」


 ガターン!と音を立てて椅子を蹴倒したかと思うと、突然一人が奇声を上げて頭を抱えた。


「どぉぉぉしてだぁ! どぉしてあのタイミングでブレスを打ってくるんだぁ!!??」

「だからぁ、言ったじゃないですか。あのドラゴンの行動は乱数テーブルで決まってるんですって」

「いやそんなはずはない! 僕の、僕の研究成果だとあそこは『凍りつく波動』以外には無かったはずなんだぁっ!」

「あ、あの~……」

「いや、実際に部長の成果外してるじゃん」

「そーそー、この前も『研究は完璧だ! 僕に付いて来い!』って堂々と言っときながら森で『ワイルドマンキー』の巣に突っ込んで全滅したし。せっかく新しい武器買おうと思って溜めてたお金、返してほしいな~」

「あ、あの……」

「のぉぉぉおおおおおっ! ノンたぁぁぁん! 皆が僕を苛めるぅぅ! 慰めてぇぇ!」

「あー、はいはい。よしよし。みんな冷たいですね~」

「希美は部長を甘やかし過ぎ」


 ザ・ガン無視である。さっきから訳の分からん単語ばっかり出てきてるんだが、ドラゴンだとか何だとか言ってるし、ゲームでもやってんのか?


「ああ……責められるのもいいけど甘やかされるのも悪くない……ぬ? 何だね、君は?」


 ようやく俺に気づいたらしい部長が眼鏡の位置をクイッと直しながら尋ねてきた。その質問はまさに俺がしたいところなんだが。

 だがようやく本題に入れる。咳払いを一つ。改めて口を開く――


「おっと、ゴメンよ。何処から情報を仕入れたかは知らないけどうちの『クラン』は少数精鋭の方針を取っていてね。もうすでにパーティメンバーの席は埋まってるんだ。だから他をあたってくれ」


 口を開く前に、ブヨブヨとした体に似合わない、所謂「いい声」で部長(?)にそう言われた。


(これは、断られたって事でいいのだろうか……?)


 まだ何も言ってないんだがな。別に入る気もあまり無かったから別に構いはしないんだが、何かムカつく。

 しかし断られた以上、これ以上ここに居ても仕方あるまい。今日は帰るか、と踵を返したところでこのコンピ研の部長が別の方向を指さした。


「ああ、それともう一つ。ついでに教えとくと、そこが生徒会室だから」指し示してきた方向を見ると、教室の黒板に向かって右端に、一枚のドアがあった。「用なんて無いと思うけど、もし出入りする時はこの部屋を通らないといけないから、可及的速やかに可能な限り物音を立てずにドアを開けてくれ。集中を乱されたくないからね。

 よーしっ! それじゃもう一回クエに挑戦するぞーっ!」 「おーっ!!」


 何をやるのかは知らんが鬨の声を上げて元気なことだ。深音じゃないが、ダラダラと怠そうに時間を消費するよりかはやる気に満ち溢れている分、遥かに健康的だろう。部屋の状況に眼をつむれば、だが。


「さて……」


 せっかく教えて貰ったことだし、生徒会にも顔を出して帰るとするか。ドアの前に立って腕時計を見るとすでに五時前。バイトに行くなら十分十五分くらいが限界だが、流石に生徒会で十分も時間を消費することはあるまい。


「おおかた……」


 眼鏡を掛けて視線の鋭い会長だったり無口で寡黙な書記の女の子が居たりするんだろうか。そんなステレオタイプな想像を巡らせつつ俺はドアを開けた。

 ドアを開けた途端、眩しい夕陽が白刃となって俺の眼を焼いた。

 一瞬目が眩んで目の前が真っ白になっていく。その中を、眼を細めながら中に入っていった。

 途端。


「すみませーん、見学しに……」

「ぬああああああああああぁぁぁぁっ!!」

「な、なんだ!?」


 唐突な雄叫びにギョッとして中を覗き込む。

 広さは予想外に狭くて六畳くらいだろうか。壁際には所狭しとぎっしりと段ボール箱が置かれていて、他にもホワイトボードやら何やらよく分からんもんが置かれたりしてて随分と乱雑な印象だ。窓も一箇所しか無くて、まるで倉庫みたいだな。

 で、先ほどの奇声の主はというとだ。


「何故だっ! 何故計算が合わんっ!!」


 などとわけの分からない供述をしながら頭を掻きむしっている状況です。


(もう帰ろうかな……)

「くそぅ、もう一回、もう一回だっ!!」


 そう言うと窓に向かって椅子に座っていた女子生徒は紙にガリガリと書き始めた。

 だが――


「あっ!」


 窓から急に風が吹き込み、机の上にあった書類が一斉に舞い上がった。椅子に座った彼女は慌てて手を伸ばす。が、あっという間に彼女の頭の上を越えていった。

 背もたれを支点にして仰け反る彼女。そこで俺と初めて目が合った。


「あ――」

「――あ」


 声が重なった。

 吹き込んだ風に彼女の長い黒髪が大きく靡いた。少し釣り上がった彼女の大きな眼がひどく印象的だった。



お読み頂きありがとうございました。

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