1-5 戻って終わり・・・じゃ、ねーんだよなぁ
吉良以下、四人はトンネルの向こうが「異世界」であることを確認。
おまけに帰り際に「異世界」の動物と触車事故!
与太話とは言わせない確実な物証を得ましたが、さてこんな話をどこにどうやって
持っていくべきか?そちらの方が大問題になりそうです。
夜の帳が降りつつある、勝間田駅構内。
朝方の地震発生から、間もなく半日が過ぎようとしているが、被害もなかったことから、真江原~勝間田の運転は再開し、表向きはいつもの日常に戻っているように思えた。
だが、大阪峠トンネルの向こうは、普通には説明しにくい状況になっていた。とりあえずはどうやって言いつくろうかを考える吉良であった。本社の一階に戻ると、運輸部長の牧が机であれこれ電話を掛けている。
「牧さん!」
吉良の呼びかけに、牧は手で制止して、手短に電話を切る。
「吉良さん、戻るの遅いぞ」
「すまん、ちょっとばか色々あってね」
そう言うと、牧の隣に回り込み、小声で、
「悪いが、澄田の方は当面運休だ。列車を走らせられる状況じゃなかった」
「そうか、じゃああれは与太話じゃなく・・・・」
「与太でも何でもなかった。おまけに今度は「物証付き」だからな」
「なに?物証?」
「4番の車庫に行くと良い。あんなモン見ちまったら、受け入れるしかない。あ、そうだ。代行バスの方はどうなった?」
吉良の問いに、牧は、
「ああ、あれから県道のルートを走った事のある運転手が見つかってな。明日からは俺が運転しなくても良くなった。それだけでも救いさ」
そう言いながら、肩をぐりぐりと回す。マイクロとは言えバスの運転だ。歳を取ると疲れやすいからなぁ・・・。
「体は楽になるだろうが、今度は胃がやられるかもな」
「止めてくれ」
牧はそう言うと、また掛かって来た電話に出る。
吉良は、そっと離れてまだ残っていた真中さんに、
「お疲れ様、居ない間、何か連絡はあった?」
と確認すると、
「社長と勝間田町からは運行計画についての問い合わせが。あと、奥さんからもお電話ありましたよ。ケータイ持って行って無かったんですかぁ?」
「あれ、持って行ったけどなぁ。気が付かなかったみたいだね」
そう答えたのち、応接室でまとめものをしているから、何かあったら応接室へ。と言って、応接室に向かう。応接室で備え付けのパソコンを立ち上げつつ、まずは家に電話を入れる。
「あら、貴方。今日はどうなるの?地震で忙しいの?」
電話に出た妻の声は、すでに旦那がいつも通りに帰ってこないだろうという想定で話し始める。
「ああ、済まない。ちょっと色々あってねぇ。今日は帰れそうにない。明日も微妙なんだ」
「そう・・・じゃあ、明日の午前中に着替えを持っていくわね」
「ああ、悪いね」
結婚してもう二十年以上経つ。子供たちもそろそろ高校を卒業し、大学に進学ともなると、夫婦の間なんて空気みたいなもんだな。変な心配はしても仕方ない。そんな感じのやり取りだ。
さてさて、次は社長と町長のところか。とりあえずは大阪峠トンネルを出たところで、倒木があるのでここしばらくは運休とでも連絡しておこう。いきなり「異世界」とトンネルが繋がってます!と言ったところで、理解してくれるわけがない。
さて、問題はあの「イノシシもどき」だな。
まずは、ぶち倒してこちらの世界に持ってきた個体。そう言えば真江原にある県立大に、同級生が獣医学部の教授になってたっけ?まずは、そいつに当たってみようか。
つい最近、高校の同窓会があったので、連絡先は更新済みだ。
「もしもし、吉良だよ。今、電話良いか?」
電話口の向こうは池田。獣医学部の教授であり、この地域の畜産業者にとっては、たよりになる獣医さんでもある。
「おう、吉良か。どうしたぁ?」
「今日なんだが、地震で線路点検してる際に、でっかいイノシシを見つけたんだが、ちょっとおかしなところがあってな。良ければ調べに・・・」
「行く!どこにあるんだ。そのイノシシ」
「ああ、勝間田の車庫にあるよ」
「よっしゃ、車で三十分も掛からん。飯を済ませたらすぐに行く。待っててくれるか」
「いいぞ、こっちは地震の後始末があるから、今日は泊りだ」
「じゃあまた」
池田は本当なら教授なんていう器じゃないんだよなぁ。なにかにつけ現場に出て行こうとする。落ち着きのない奴だったが、歳を取ってもそれは変わってないようだ。でも、これであの「イノシシもどき」について、少しでも分かると有難いんだが。
そこまで連絡を済ませて、はたと気が付く。
トンネルの向こうで「もどき」を退治した。トンネルは誰でも通れる状態のままだ。まさかとは思うが、トンネルを通ってあの「もどき」がこっちの世界にやってきたら、どうなる?
そう考えると、恐ろしくなり、慌てて石橋を呼び出す。高橋の撮影に付き合っていた石橋は、付き添いも終わって、自分の机で晩飯の真っ最中だった。ああ、俺もそろそろ晩飯にしたいなぁ。
「おい、石橋さん。今からもう一仕事頼みたいんだが」
「吉良さん、ますは飯を食ってからでもいい仕事か?」
「ああ、可及的速やかに。とまでは言うつもりはない。なんせ俺たちは「疲れてる」からな」
「センサーカメラの予備はあるよな?あれをトンネルの入り口に仕掛けたい」
センサーカメラと聞いて、石橋は不思議そうな表情になる。
「センサーカメラ?あのシカ用に買った奴の事か」
「それだ、そいつをトンネルの入り口に仕掛けたいんだ」
「どうして?」
「あのさぁ、あの「もどき」がトンネルを通ってこっちの世界に来てみろ。どうやって退治するんだい?」
「もどき」と聞いて、石橋もようやく気が付いたようだ。顔が青ざめている。
「・・・そうだったな。あんなのがこっちに来たら、被害甚大だな」
「センサーカメラなら、フラッシュもブザーも付いている。簡単な脅しには使えるだろう。やっておいて損はないはずだ」
吉良の言葉に、食べかけの弁当を掻っ込んでから、
「おーい、田中ぁ!もう一仕事すっぞー」
そう言って、倉庫の方へと飛び出していった。
素人のやる事だが、やらないよりはマシだろう。
ついでに高橋の机に向かうと、さっき撮って来た画像と動画を纏め上げたところだった。
「部長、証拠のデータは整いました」
「ああ、なら俺たちが見た顛末をメールで、社長と知事に送ってくれ」
「社長はともかく、知事もですか?」
「ああ、どうせ社長(副知事)の事だ、戯言と称して報告が遅れるかもしれん。まずは送っておけ。そうすれば後で言い逃れが出来るからな。それと、そのデータを俺のスマホにも送れるか?個人的な知己に相談しようと思ってな」
高橋は、吉良の話を聞きながらメールの送信画面を開いて、早速、今日の顛末を纏め上げる。送信先は社長に知事、そして吉良。さすがIT世代だ。やることが早くて助かる。
「はいっと、送信完了」
「あと、一時間もしないうちに県立大から池田という教授が、こっちにやってくる。来たらあの「もどき」のところに案内してやってくれんか」
「えー、残業確定じゃないですかぁ」
「お前なぁ、おまえもアレの当事者なんだぞ。そう簡単に逃げられてたまるか」
吉良がちょっとすごんで見せるが、高橋は駄々をこねる。
「やだ、やだ、やだぁぁ」
吉良は、そんな高橋の耳元で、低い声で囁く。
「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ・・・」
「ぼく、シンジ君じゃありませんよぉ」
高橋にもう一仕事押し付け、吉良は外の喫煙所に向かう。
タバコを咥え、スマホを取り出す。自分たちが見てきたものの画像と動画を、知己のLINEに送信する。
「吉良だ、まずはさっき送った画像と動画を見てくれ。その後通話したいので返事をくれ」
メッセも送って、暫くはタバコに神経を集中させる。
一本目を吸い終わり、二本目に火を付けた時、LINEの通知音が鳴った。
すぐさま、通話に移る。
「吉良だ、片桐。さっきの画像と動画は見たか?」
吉良は自分の出来る範囲で、「異世界」の画像と動画を関係向きに送り付ける。
まずはコチラからのボールにどう反応するか?
投げつけるだけで、あとはお役御免になればそれはそれで有難いが、どうも吉良には一つの考えがあるようで・・・・。親しい知己にも相談をする。その知己とは誰なんだぃっ?




