1-6 もはや、鉄道会社で処理できるわけがない・・・・
吉良の知己とは?地元に駐屯する自衛隊の連隊長様でした。
確かにトンネルの向こうが別の世界であれば、会社単体で対応できる事態ではありませんが、まさかいきなり自衛隊ですか・・・・。
少し時間は巻き戻る。
真江原市のはずれにある、陸上自衛隊真江原駐屯地。ここには第三十四普通科連隊が配備されている。
午前八時半、朝礼が始まり、基地の一日が始まる。
駐屯地の庁舎。その中にある連隊長室。
駐屯地の司令でもある連隊長、片桐一佐は来週から始まる訓練計画について、部下からの報告を受け、十時から始まる県庁での連絡会議の資料をまとめているときだった。
建物がガタガタと揺れる。地震だ。
揺れは十秒ほどで収まったように思えた。揺れが収まるとあちこちで大声が飛び交う。
片桐一佐も、自室で揺れが収まるまでじっとしていたが、収まると同時に、各部署への指示を下達する。
「第一、第二中隊は災害派遣出動を念頭に、装備品の確認を急げ。第三中隊は駐屯地内の被害状況をまとめろ。第四中隊は今のところ通常の体制を取る事」
駐屯地の有る真江原市は、山などもない事から心配はしていないが、大川原地方の勝間田町は、県境の山を持つこともあり、土砂崩れなどの災害があるやもしれない。実際に、去年の豪雨では勝間田町を通り隣の県に通じる県道で土砂崩れがあり、駐屯地から災害派遣出動を行っている。
「急いで待て。とはいうものの、お呼ばれしないと動けないのも、歯がゆいものだ」
片桐は、地震の後の対応に追われる駐屯地の中で、一人じっと待つしかなかった。
県からの災害派遣出動は、地震から約二時間後に要請があり、すでに待機状態だった第一、第二中隊を急ぎ派遣することになった。今回は大川原地域の方では、主だった災害は起こらなかったようで、部隊を送り出した後の駐屯地は、少しの間、平穏を取り戻していた。
夕方近くになり、派遣した第一、第二中隊は半数の人員が駐屯地に戻って来た。どうやら中隊以外にも民間業者も捕まえられたようで、土砂崩れの解消もめどが付いたとのこと。後片付けがあるものの、人員的に余裕が出たので、戻れる隊員は戻って来てもらった。
そんな終業間際。片桐の私物のスマホがブルブル震える。LINEの通知だった。
見ると、ちょっと前の高校の同窓会で久しぶりに会った、吉良からであった。でも、まず送られてきたのは画像と動画だった。
「なんだ、吉良の奴は。どっかに旅行でも行ってるのか?」
確かに画像を見ただけでは、日本離れした風景の画像で、旅行中のスナップと間違えそうだった。だが、最後の画像を見て思わず、
「なんだこいつは?」
と声を上げてしまった。そこにあったのはイノシシの画像だったが、どう見ても大きさが普通のイノシシとは違う。牛かと間違えるくらいの大きさ。そして、一番の違いは額から生える大きな一本角。こんな奴が、日本に居るとは聞いてない。
そして最後の動画を見ると、明らかに日本とは違う風景を映し出している。そこに録音された会話は、旅行のものではない。どうやら何かを調べている最中のものだった。
最後はメッセージ。通話したいから連絡を寄越せ。
片桐はLINEの通話ボタンを押して、吉良へとつなぐ。
「吉良だ、片桐。さっきの画像と動画は見たか?」
「ああ、見たぞ。何だ最後のあのイノシシみたいなのと、動画は?」
「今朝の地震、知ってるだろ?」
「ああ、ウチの部隊も災害派遣出動している」
「大阪峠のトンネル知ってるな?」
「県境の?あのトンネルが崩れたのか」
「崩れたのなら可愛いもんさ。崩れる代わりに日本とは別の世界に繋がった様だ」
「・・・・別の世界、繋がる?」
吉良の言葉に、片桐は最初、何を言っているのだ?と訝しんだ。
「ちなみに、その異変が生じているのは大坂峠トンネルだけだ。他の県道とかトンネルの先の線路には異常がないらしい」
「で、そのイノシシもどきはどうやって仕留めたんだ」
「仕留めたつもりはない。調査から帰る途中でモーターカーで跳ね飛ばした」
「そうか、じゃあ今晩の晩飯は牡丹鍋だな」
片桐が冗談を繰り出すと、
「そうしたいのは山々なんだがな、異世界の生き物だ。まずもって食える保証もないし、怖いから県立大の池田に話を振ったよ。覚えてるだろ?大学教授のくせにあちこちの牧場で現場指導してるあいつだ」
吉良の話で、片桐も同級生に居た池田の顔を思い出していた。
「んで、俺に電話すると言う事は何か相談か?」
「ああ、今でも大阪峠トンネルは封鎖出来ていない。まあ、封鎖するような設備も資材もないからな。そんな「おっぱっぱー」なトンネルの先には、あのでっかいイノシシが居るんだぞ。意味は分かるか」
吉良のなぞかけに、片桐は少し考える。
「あのトンネルを通ってあんなでっかい化け物が、こっちに来てみろ。普通の獣害で済むわけなかろう」
そう言われて気が付く。そうだな、あんなどでかいイノシシみたいな奴、地元の猟友会がどうにか出来る代物ではないな。
「分かった、今、トンネル周辺はどんな状況だ」
「沿線の獣害用に買っておいたセンサーカメラを設置してある。何もしないよりはマシだろうと思ってな」
「ふっ、素人にしては頭が回るな。今度、ウチの連隊で訓練でもしないかw」
「五十過ぎの普通のサラリーマンを、殺す気ですか?」
電話の向こうでは、吉良が「おま、なめとんのか?」と言った表情をしているのが脳裏に浮かぶ。やはり、同じ高校の同級生と言うのは、幾つになっても変わらないものだな。片桐はそう思う。
「冗談だよ。だが、お前の懸念はもっともだ。幸いにもウチの連隊は災害派遣でバタバタしている。一小隊くらいは派遣したとしても、バレることは無い。今からそっちに人間を送る。ある程度の指示はコチラからしておくから、あとはそっちで何とかしてくれ」
片桐の早すぎる決断に、
「おいおいおい、そんな事しても良いのか?」
「なーに、災害派遣出動はまだ終了してない。有難く使わせてもらうよ」
「なら有難い。警備のプロに来てもらえれば、こっちは枕を高くして眠れる」
「ああ、吉良。さっき貰った画像と動画。ウチの信頼できる部下に見せても良いか?」
「大丈夫だ、同じものはウチの社長と県知事に送付済みだ」
「なら、第一陣はすぐに送る。俺はあの画像と動画を部下と検討して、その後の対応を決める」
「連絡はコレ(LINE)でやろう。変化があったら随時報告を入れる。そっちも頼むぞ」
そう言って片桐はLINEの通話を切る。内線で管理中隊に連絡を入れ、第四中隊を勝間田に派遣するように下令する。次にオタな趣味を嗜んでいる施設と補給の小隊長を、自室へと呼び出す。
「別の世界・・・・ねぇ」
片桐が呟くが、呟いても何も解決の糸口にはならない。
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片桐との通話を終えた吉良は、建物の中に戻る。
帰らせてもらえない(榎本さんと真中さんは、夜遅くなるので帰って貰った)高橋が、吉良を捕まえて、
「社長と県知事からの返信が来てます」
早速、返信のメールを読むことにするが、社長の方は「何を寝言を言ってる。もう一度しっかりと点検せよ」とつれない返事。県知事からは「非常に興味深い、明日の朝に県庁から人間を送るので、もう一度調査をお願い出来るか?」と、こちらの方が優しい返事だった。
「まあ、そんな反応だよなぁ」
「まだ県知事の方がまともですね。社長は・・・」
「ありゃ、アカン。総務省からの天下り組だ。頭が固すぎるんだよ」
そう言うと、吉良と高橋の「腹の虫」がハモった。
「そう言えば、晩飯まだだったな」
「そうですね、あまりにもいろんな事があったんで、メシ忘れてました」
「よし、今晩はおごってやろう。但し駅前の「みのり」だがな」
「安っ!どうせなら出前取りましょうよ。うな重とか」
「ばかやろー、今手持ちが寂しいの」
「ちぇー」
吉良と高橋は、駅前の定食屋「みのり」へと歩いていく。時間も遅いからまともなモノが残っているか、それは店に行かないと分からない・・・・。
少しずつ事態の進展が見えてきました。
でも、まだまだ吉良以下四人の、証言がメイン。
あの画像と動画、そして「イノシシもどき」と言う物証で、これからどんな展開になるのでしょう?




