1-3 線路は続くよ、何処までも?
あるべき風景がない時、人間はどんな反応をするのか?
残念ながら作者は、そんな状況になったことがないので、上手く表現できません。
でも、殆どの人が同じような感覚になるんでしょうねぇ。
大坂峠トンネルを抜けた、石橋と田中が見たものは?
あるべきはずの部間駅のホームではなく、鬱蒼とした森林を貫く一本の線路。
トンネルの出口でカートを停めた二人は、カートから降りる事なく、周りを見回してばかり。
「なあ、田中。俺、昨日は晩酌してねーんだ」
「俺だって昨日は飲んでねーわ」
「だったら、これは一体何なんだ?」
「知るか!少なくとも俺たちはトンネルを真っ直ぐ進んで来た。これは事実だ」
「ああ、トンネルが二股に分かれて変なところに繋がってるとは思ってない」
「そうだろ、俺たちはいつもの様にトンネルを抜けた。ただそれだけ・・・」
「それだけで済むか?!トンネル出たら駅は無い。おまけに見た事もねえ森ん中を線路が走ってんだぞ。おい、どっかにカメラ仕掛けられてねーか?」
「ドッキリか?!」
「って思いたいんだよ・・・」
「・・・それは同じだよ」
一通り漫才を終えた二人。
「さてと、どうする?」
ため息を付いた石橋が田中に振る。
「どうするって、何を?」
「決まってんだろ。行くか、退くか。どっちか決めねーと」
石橋としては、線路からは離れたく無い。ならば行くか退くかどちらかしか選択肢は無いと思ってた。
「・・・行く」
「早えーわ」
「とりあえず走れるとこまで走ってからだ。だが漫然と走るのも嫌だな。とりあえず今から一時間は走ろう。一時間経ったら、勝間田に戻ろう。えっと今は何時だ?」
こういう時の田中の決断は早いし、線引きもしっかりしてる。時計を見ると十四時三十分、一時間と決めた以上は、だらだらしてても始まらん。
「石橋さん、行くよ」
田中の声掛けに、
「しゃーねぇなぁ」
石橋も腹を括った。
ポポポポポポ。
鬱蒼とした森の中を伸びる線路。その上を二人を乗せたカートは進む。田中は一時間と決めていたが、あれから十分ほどで森は途切れ、線路は平原へと進んでいく。
「あんまり、深い森じゃなかったな」
石橋の呟きに、
「正直助かった。一時間もあのままだったら、どうしようかと思ってた」
田中は本音を漏らす。
平原に伸びた線路、少し登っている様で、先の風景が見通せない。
「何が出るかな?何が出るかな?テレテレテッテテテテ」
「懐かしいなぁ」
昔、昼のトークショーでMCが唄ってた奴を口ずさむ田中に石橋が合いの手を入れる。
緩やかな坂を登り切った時、二人の目に異質なものが映った。線路は丁度そこで途切れていた。
「おっとっと、脱線するところだ・・・・が、何だアレ?」
田中がカートを急停車させる。石橋は目の前の光景を見ながら、
「・・・言っていい?」
「うん」
「城だよな」
「ああ城だな」
「城だよなぁ」
「ああ、城だ。日本には無いタイプのな」
二人の目に映ったのは城は城でも、日本の城ではなく西洋風の城であった。城だけではない、城の周りは壁で囲まれ、中には街が見えていた。
「なあ田中」
「何すか?石橋さん」
「アレってテーマパークかぁ?」
「んなテーマパークあったら、ウチの線路伸ばしてお客さん運んでますわ」
「だわなぁ」
それは二人なりの現実逃避であった。
「田中、帰るぞ」
「言われなくても帰ります」
「帰ったら、早退けして飲もうっと」
「それが出来れば良いですがねぇ」
カートの向きを変え、今来た線路を戻る二人。行きとは違い点検なんて関係ないので、結構なスピードで走って行く。平原から森の中に入ると、エンジン音が篭るためか、会話もままならない状況に。
だがカートに乗る二人が喋る事はなかった。まずは勝間田に戻る。それしか頭にはなかった。
緑のトンネルの次に大坂峠トンネルへと進む。こちらも何の変化もなく存在している。田中はカートのエンジンをフルスロットルにする。行きに比べれば半分以下の時間で戻って行く事になる。
トンネルの出口が見え始めた頃、田中はカートのスロットルを一気に絞る。急減速に二人の体は前の方に持っていかれる。
「ちょ、少しは手加減しろや」
「でもねぇ、この先が勝間田だって保証、無いでしょ?」
石橋のボヤキに田中は冷たく返す。
急減速したカートはゆっくりと進み、トンネルを抜ける。そこには親の顔よりも見ている勝間田の構内が広がっていた。
「も、戻って来たぁ・・・」
どちらからともなく、そう呟く。
カートを奥の側線に進める。カートを車庫の前で止めた二人は、どう説明するべきか悩みつつ、本社の建物へと足を進めた。
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「駅が無いぃぃぃぃ?」
本社一階のフロアに、総務部長・吉良の素っ頓狂な声が響く。流石の大声にフロアにいた全員が吉良の方を向く。
素っ頓狂な声を上げた吉良は、報告を上げた石橋と田中の顔を見る。酔っ払うと与太話しかしない二人だが、今は仕事中、どう見ても酔っ払ってる風には見えない。
吉良は頭を掻きむしりながら、
「トンネルは無事だった。でもトンネル出たらあるはずの部間の駅は無くて、鬱蒼とした森だった。しばらく進むと森を抜け平原に出て、線路が途中で途切れていた。そこから見えたのは西洋の城っぽい何か?進めないから戻って来た。それで良いんだよね?」
そんな吉良の理解に、石橋と田中は頷くだけだった。
「・・・・マジか・・・・」
正直な話、二人の報告は吉良の理解度を超える内容だった。だが、報告を信じるなら、勝間田から奥に列車を走らせる訳には行かない。ちょうど代行バスで往復して戻って来た牧を捕まえた吉良は、澄田までの状況を確認する。
「向こうの状況だって?県道は崖崩れも無かったし、部間の駅も澄田の駅も普通に有ったぞ。どうかしたのか?」
牧は代行バスで見たままを答えたが、吉良の表情は優れない。次の代行バスの時間までは暫くあるので、牧と石橋、田中を建物外の喫煙所へと連れ込む吉良。
休憩室に入って、タバコに火を付ける吉良。そこでもう一度石橋と田中にトンネルの向こうの状況を牧に報告させる。報告を聞くにつれ、牧の表情も何とも言えない表情に変わって行く。
「んーとだな、石橋と田中の言い分を信じると、トンネルの向こうには武間の駅でなくて、森、そして平原、更には城があるって言う事だな?」
牧も自分が見た光景と、石橋たちが見た光景の違いに、少々、のーみその処理が追い付いていないようだ。
「嘘だと思うなら、もう一度行くか?今度は吉良さん、あんたも来てくれ」
「俺もかよ?!」
「目玉は多い方が良いだろう?」
石橋は吉良を見てにやりとする。
「うーん、牧さんも。と言いたいところだが、アンタは代行バスの運ちゃんだから無理だな。ウチの総務から人出すか」
「ああ、カートじゃ狭くなる。モーターカー出すけど良いかい?牧さん」
「ああ、いいぞ。手続きだけはしっかりと残しといてくれよ。運輸局には突っ込まれたくないからな」
石橋がカートでなくモーターカーを出すというと、牧はあっさりと許可した。
「高橋にデジカメとGoPro持たせるか。画像だけなら何とでも言われそうだし、動画なら少しは説得力も上がるだろう」
吉良は、殆ど咥えていただけのタバコを、灰皿に捨て、建物へと戻っていく。
他の面子も、それぞれのやることを思い出して、建物へと戻っていく。
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もう一度、とは言ったものの、時間もそんなにない。すでにおやつの時間は過ぎ、夕方が近づいている。明るいうちに現場確認したいので、吉良は机で報告書を作っていた高橋を捕まえると、
「おい、もう一度、トンネルの向こうを調べに行く。デジカメとGoProの用意して、側線に来い」
そう言って、自分もヘルメットを手に取り、裏の側線へと向かった。
石橋と田中はすでにモーターカーのエンジンを掛け、点検に余念がない。
吉良が乗り込もうとすると、後ろから、
「部長~、こんなんでいいっすかぁ?」
と高橋の間延びした声が聞こえる。振り返るとGoProを付けたヘルメットに、上着だけ作業服に着替えた高橋の姿がある。
「おい、時間がない。急げ」
モーターカーのステップを上りながら、吉良が答える。
高橋が乗り込んだと同時に、石橋がトランシーバーで牧と打ち合わせる。
「こちらMC1番、側線2番から下り方への進路を要求する」
「こちら勝間田運転、側線2番から下り方への進路設定完了。戻ってくる際は、上り場内で一旦停止、トランシーバーで進路要求せよ。以上」
四人を乗せたモーターカーは、ポイントを渡り大阪峠トンネルへと向かって出発していった。
鬱蒼とした森に、平原。そして西洋風の城・・・。
テーマパークだったら、どんなに良かったことでしょう。
でも、どうやらそんな「あまーい」想定ではなくなりそうな予感が。




