1-2 県境の長いトンネルを越えると・・・
真江原から勝間田に点検を集中させた大川原鉄道の面々。
一方、勝間田から澄田は後回しにしましたが、そっちの方がとんでもない事に?!
朝っぱらから大きな地震に見舞われた、大川原鉄道。
幸いにも走行中の列車には被害もなく、怪我人無しとの知らせにホッとする。だが、そのあとは施設の点検をして異常がないのを確認するまで、お客さんを運べない。
という事で、運輸部門と施設部門は総出で沿線の点検に。まずは真江原〜勝間田の点検が最優先だ。悪いけど澄田の方は、こっちが片付いてからだな。
そうして出て行ける人間が全て出て行くと、残されたのは総務部のメンバーのみ。残ったら残ったでお客さんからの電話による応対や、関係部門との連絡。現場に出て行った点検チームの報告を取りまとめたり、四人でフロアを行ったり来たりでそれはそれで大変だった。
点検チームの情報が全て出揃ったのは、昼前。幸いにも線路に支障は無かったので、途中で運転を取り止めた列車を使って点検列車を走らせ、確認が取れたら営業再開。という発表を行うと、ようやく一息付く事が出来た。
「しかし、まあまあの揺れだったねぇ」
自分の湯呑みにお茶を入れ直して、一口飲んでため息を付くと、
「ここ何十年で久しぶりの大きな地震でしたわねぇ」
と、年齢を詮索されたくないのか、ぼやかした表現をする榎本さん。
若手の高橋くんと真中さんは、こんな大きな地震初めてです。とブルブル震えている。
それぞれに思うところはあるものの、線路に支障もなく、お客さんにも怪我が無かったのは幸いだった。
現場に点検に出た人間も少しずつ戻ってきて、遅い昼飯に取り掛かる者も居れば、飯も食わずに業務に戻る者も居る。
あ、そうだ。真江原〜勝間田は運転再開できたが、勝間田〜澄田はまだ点検にも行けてないぞ?!私は慌てて運輸の牧さんと施設の石橋さんを捕まえて、
「牧さん、石橋さん。ホッとしちゃいかんぞ。澄田の方はまだ点検しとらんだろうが」
牧さんも石橋さんも思いっきり「忘れてた」と口をあんぐり開けたまま固まってた。でも石橋さんの方が復活は早い。
「澄田の方の点検、飯食ったら行くぞ!田中ぁ、カートの準備しとけよぉ」
牧さんも慌てて、「澄田方面は点検中。運転再開は未定」の張り紙を貼る様に指示を出す。
私の方は地元のバス会社に、マイクロバスを借りれないかの算段をしないといけない。まあ、今日だけ借りれれば良いだろう。
地元バス会社の営業所に電話すると、バスは有るが人が居ないんだわ。との返事。とりあえずバスだけ借りる手配をして、牧さんの下へ。
「牧さん、澄田への代行バス、車はあるんだが人が居らんそうだ。どうするね?」
牧さん、それを聞いて額を叩く。
「運ちゃん居ねーのかよ、しゃーない、俺が運転するわ」
牧さん、前職はバス会社で運転手してた異色の存在。昔、豪雨で運転見合わせになった時も同じ様な状況になって、自分でハンドル握ってたな。
私と牧さんで車に乗って、近所にあるバス会社の営業所へ向かう。長年の馴染みである所長が出迎えてくれて、
「済まねえなぁ、人は居ないし、居ても澄田の方に走った事のある奴も居ねーんだ。車だけは出すから、そっちで自由に使ってくれ」
そう言って鍵を牧さんに渡す。牧さんはマイクロを、私が行きに使った車を運転して勝間田の駅に戻る。
誰かが作ってくれた、「代行バス」のラミネートをあちこちに貼って、ひとまずは代行輸送の手配は完了。
一方の施設側。
石橋さんとベテランの田中さんは、点検用のカートの準備に余念がない。なにせ森の中を走る区間なので、チェーンソーは必須である。まあ、人力で対応出来なければ、増援部隊をモーターカーで送り込まなければならないだろう。
県道とは川を挟んで走っている大川原鉄道。県境の向こうでは簡単に線路際まで車で近付けない。そんな点からも何かが起こるととても面倒な区間である。正直、廃線に出来ればこんな苦労をしなくても済むのだが・・・。
「田中ぁ、日が暮れるとまずいから、照明はデカいの持ってくぞ」
「おう」
石橋さんと田中さん。二人とも会社設立当時から線路の保守一筋、おまけに高校の先輩後輩の仲なので、信頼しあってる。準備はテキパキと進み、大坂峠のトンネルを越えて澄田まで向かう。
「トンネル抜けてすぐの部間駅の辺は森だからなぁ。でけえ木が倒れてなきゃ良いんだが」
「トンネルもどうだかな。作りはしっかりしてるが古いんでなぁ。崩れてなきゃ、なぁ」
石橋さんと田中さん。いつも見回っているが、あんだけ大きく揺れた地震の後ではかなり慎重にならざるを得ない。
そんな二人に私は、
「無茶せんで下さいよ。二人みたいなベテランが居なくなったら、大変なことになる。無理しないでダメならすぐに引き返して下さいよ」
「わーってるって、仕事の後の酒が生き甲斐なんだ。酒が飲めなくなる様な事するかよ」
石橋さん、ザルだもんなぁ。
「何もなきゃ、日が暮れるまでには帰って来れるっしょ」
田中さんは、往復に掛かる時間を想定して、事も投げに言う。
「んじゃ、行ってくるわ」
そう言い残して、二人を乗せたカートは駅構内を抜け、トンネルへと向かっていく。
「何も無きゃ良いんだけどねぇ」
私の呟きが、大きなフラグ立てになってるとは、誰も気が付かなかった。
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ポポポポポポ、と軽いエンジン音を響かせてカートがトンネルを進んでいく。カートに載せられた照明がトンネルの内部を照らしている。
「とりあえず、半分は越えたが異常はないな」
石橋が周囲を見渡しながら呟く。
「中は心配してませんがねぇ、出口の周囲、少し岩が風化してましたからねぇ、そっちが心配だ」
田中は先日の線路巡視の光景を思い出しながら、前方をしっかりと見つめる。
大坂峠トンネルは、戦前に開通した勝間田までと違い、戦後になってから作られたトンネルである。戦前と戦後では路線の作り方も変わり、長いトンネルが多用される様になった。大坂峠トンネルもご多分に漏れず、戦後の設計で直線的なトンネルだった。
二人を乗せたカートはトンネルの四分の三を進み、出口が近付いて来た・・・・筈であった。
「おかしいなぁ、そろそろ出口の光が差し込んで来てもおかしくないんだが?」
カートを操縦する田中が疑問を感じる。石橋も、
「まだ日が暮れる時間でもないし、天気も悪くはない。なんで光が見えんの?」
何事も無ければ良い。と思っていた二人。どうやらそうは問屋が卸してはくれない様です。
「田中、少し速度落とせ」
「あい」
トンネルの出口が近付き、ようやくトンネル内部に外の光が差し込み始めた。とりあえずは出口は無事な様だ。
そろそろトンネルの外が見えるという時、田中はトンネルの先の風景を見て唖然とし、カートを停めてしまった。
「い、石橋さん。ありゃ一体何です?」
そう問われた石橋も、トンネル内から見える外の風景に唖然としている。
「・・・駅が、無い?」
トンネルを出た線路は真っ直ぐに伸びて、ホーム一本の部間駅に到達しているはずでした。
だが、そこで二人が見たものは、鬱蒼とした森林の中に伸びる一本の線路。ホームなんてありません。だが線路は鬱蒼とした森林の中を真っ直ぐに進んでいます。
さて、二人は一体何処に着いたのでしょうか?
保線のベテランがトンネルの先に見たものは?
あるはずの駅が無い。
鬱蒼とした森林の中を伸びる線路。明らかに大川原鉄道の線路ですが、風景が一変。
戻るか、進むか。二人の決断や如何に?




