第5話 強風で髪型崩れるし! 乙女の乾燥肌は自衛隊より怖い
「第11ヘリコプター隊、前進! AH-64Dアパッチ・ロングボウ、超高度より風圧包囲網を展開せよ!」
戦車隊の足ツボ化という悪夢の全滅から数分後。
上空に突如として爆音が響き渡り、数機の大型攻撃ヘリコプターが校庭の上空を覆い尽くした。メインローターが猛烈な勢いで回転し、校庭に巨大な竜巻のような暴風を叩きつける。
「うわっ、すげえ強風……! ハルカ、今度は上だ!!」
伸一は校舎の壁にしがみつきながら叫んだ。
だが、ハルカは攻撃ヘリの20ミリ機関砲でも、Hellfireミサイルでもなく――なぜか己の頭上を押さえて悲鳴をあげる。
「きゃあぁぁぁっ!? やだやだやだ!! 前髪! 私の一番大事な前髪が崩れるーーーっ!!」
「そっちかよ!! 兵器の心配をしろ!!」
ハルカにとって、毎朝1時間かけて角度をミリ単位で調整している前髪(※超厚手チタンプレート)は絶対防衛線だった。
怒りで顔を真っ赤にしたハルカは、上空のヘリ部隊に向かって手をパタパタと振り回した。
「もうっ! 強風吹かせないでってばぁぁっ!!」
【ゴオオオオオオオオッ!!!】
ハルカの手招き一発で、10メートル級の質量の風圧(巨大台風並み)が発生。
上空のアパッチヘリ隊は「うわああああっ!?」と悲鳴を上げながら、まるでハエのように風で綺麗に明後日の方向へ吹き飛ばされ、空の彼方へと散っていった。
「ヘリ部隊、全機風圧でロスト……! ただの『手払い』で我が国の航空戦力が……!」
指揮車のスピーカーから、絶望に満ちた隊長のボヤキが漏れ聞こえる。
「くそっ、ならば作戦プランCだ! 超大型冷却照射車、発射ぁぁぁ!!」
生き残っていた自衛隊の特殊車両から、猛烈な冷風が噴射された。
ハルカの足元を凍結させ、超合金の関節を固めて動きを封じる作戦だ。
マイナス百度の極冷気流が、ハルカの足元を襲う。
「ひゃんっ、寒っ!? なにこれ急にエアコン……?」
ハルカは露骨に嫌そうな顔をすると、すっと身をかがめて冷却車両の巨大な風向き調整ノズル(ルーバー)をガシッと掴んだ。
「ちょっと! 私、極度の乾燥肌なんだから直接冷風を当てないでよ! お肌がカサカサになっちゃったらどうするの!?」
「ロボットに皮膚はねえだろ!!」
「風向きは、上!! これ、常識でしょ!」
【バリバリバリガガガガッ!!】
ハルカが「保湿優先!」とばかりに強引にノズルを真上にブチ折った瞬間、高圧冷却器の内部圧力が限界を突破。
【ドカンッ!!】
猛烈な爆発音とともに冷却車両自体が木っ端微塵に吹き飛び、上空へ放たれた冷気が綺麗なダイヤモンドダストとなって校庭に降り注いだ。
「冷却器が……『乾燥肌だから直接風を当てるな』という理由で爆破されただと……!?」
「美香、なんかすごく綺麗な氷のつぶつぶが降ってきたわね……」
「黙りなさい沙織! あの怪物、自衛隊の最新兵器を前髪と保湿の理由だけで全滅させてるのよ……!?」
校庭の隅でガタガタ震える美香たちを余所に、ハルカは「ふぅ、お肌が守れてよかった〜」と満足気に応答保温モードに入っている。
伸一は全滅した自衛隊の煙と、上空でキラキラ光るダイヤモンドダストを見上げながら、深い吐息を漏らした。
「……なぁハルカ。自衛隊よりお前の乙女心の方がよっぽど地球の脅威だと思うぞ」




