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第3話 教科書はB0サイズ、ノートは畳サイズ

 1限目の授業が始まる前。教室の中はざわついていた。


「おい……外、見ろよ……」

「また巨大ロボットが座ってるぞ……」

 

 校庭の真っ只中。

ハルカは全高十メートルの巨体をギギギと折りたたみ、体育座りをしていた。


 校舎二階の1年2組の窓から、ちょうどハルカの巨大な頭部と目が合う高さだ。


「……おはよう、ハルカ。今日も座り心地悪そうだな」


「ううん!伸一くんのクラスがよく見えて、私とっても幸せだよ!」


 伸一が窓越しに声をかけると、ハルカの頬からシュゴーッと嬉しそうな冷却蒸気が吹き出す。


 10メートルの高校生に合わせた特注の学校生活。

伸一の机の上にあるのは、ハルカ用の特注ノート(畳サイズ)と特注シャープペンシル(丸太サイズ)、そして教科書(B0サイズ)だ。

そうやって伸一が窓越しにページをめくってあげるのが、毎朝の日課(共同作業)だった。


 だが——その平和な光景を、耳を刺す高笑いが打ち砕いた。


「ギャハハ! ねえ先生ー! 朝から校庭に不審なバケモノが鎮座してて恐怖を感じるんですけどー? 即刻退学処分にしてくださいよ!」


 美香だった。

美香の後ろには、取り巻き女子——警視総監の娘である『沙織』がスマホを片手に立っている。


 美香は校内放送のレバーを勝手に下げ、マイクに向かって勝ち誇ったように叫んだ。


「ちなみに言っとくけど、あたしのパパはこの高校の『理事長』だからね? 理事長権限で、伸一とあのバケモノを本日付で退学にしまーす! 沙織ちゃん、例の頼んだよ!」


「おっけー美香! うちのパパ(警視総監)に電話して公安警察を派遣してもらうね!」

沙織がドヤ顔でスマホを耳に当て、スピーカーモードでパパに電話をかけた。


『——あ?10メートルの巨大ロボット? バカ言ってんのか沙織。そんな冗談に公安を動かせるか、税金の無駄だ。切るぞ』

ツーツーツー……。

「あっ……切られた。なんか『そんなので公安警察を動かせるかバカ』って断られちゃった☆」


「……ったく使えねえな警視総監!!」

美香と沙織のあっけない撃沈に、教室中がズコーッとコケる。


(ふう……いくら権力者の娘でも、流石にそこまで無茶苦茶な国家権力の私物化は無理か……)

伸一は胸を撫で下ろし、ほっと息を吐いた。


 ——だが、その平和な教室の空気はハルカの「純愛」によって一変する。


「美香さん……! 伸一くんを退学にしようとして……私の大切な伸一くんの学校生活を奪おうとするなんて……絶対許さないんだからっ!!」


【キュイイイイイン!!!!】

『感情限界突破。メインフレーム出力、上限開放(オーバードライブ)』

ハルカの瞳がカッと赤く発光し、巨大な超合金の指先が縦横無尽に動き出した。


【ピシッ……シュギャアアアアン!!!】


 まず、ハルカは超精度レーダーと繊細すぎる関節サーボを駆使し、指先一本で美香たちの足元にあった「没収されかけた伸一の荷物」を一瞬で元のバッグの中へ超高速回収!


 また同時に、ハルカの目から放たれた『感涙の排熱スチーム(サウナ状態の超温風)』が窓から美香たちへ全開で流入!


「熱っ!? 熱い熱い熱い!!」

「髪の巻きが取れる〜〜!! メイク落ちる!! ギャーッ!!」

美香たちのバッチリ決めたギャルメイクと巻き髪が、ハルカの純愛排熱スチームによって一瞬でドロドロのボサボサに無力化!

2000トンの圧倒的質量と熱効率による、完璧な「女子を社会的に抹殺するにはこれ以上無い物理排除(無双)」であった。


「キャアアアア!! ごめんなさい!! もう退学なんて言いませんからぁぁ!!」


「うわ……美香たちの顔、マジでやば……」

「っていうか、親の権力でクラスメイト追い出そうとして失敗するとか……ダサすぎて引くわ」

「今まで威張ってたけど、中身スカスカじゃん。関わらんとこ……」


 ドロドロの素顔を晒して這いつくばる美香たちに対し、今まで取り巻いていた女子やクラスメイトたちから、氷のように冷ややかな蔑みの視線が一斉に突き刺さる。


「あ……みんな……? 違うの、あたしは……っ!」

焦った美香が助けを求めるように手を伸ばしたが、仲良かったはずの女子グループすら嫌悪感を剥き出しにして背を向けた。


 一瞬にして、クラスの一軍カーストの頂点から、誰一人相手にしてくれない「最底辺の爪弾き者」へと暴落したのだ。


(なんで……!? あたしが……私たちが何したっていうの……!?)

すっぴんのひどい顔を両手で隠しながら、惨めな屈辱と後悔に震え上がる美香。


 ハルカをバカにし、伸一を陥れようとした代償は、一瞬にして自分の学校生活そのものを崩壊させるという『完全な社会死』となって跳ね返ってきたのだ。


「う……うわああぁぁぁんっ!! ごめんなさい! ごめんなさいいいいっ!!」

美香たちはボロボロの涙と鼻水でグチャグチャになった顔のまま、激しい後悔の悲鳴を上げて教室を逃げ出していった。


 放課後——。

授業が終わり、部活動や下校で生徒たちが疎らになった夕暮れの教室。


 ひとり残って日直の仕事を片付けていた沙織のスマホが、激しく着信音を鳴らした。


「あ、パパからだ。……もしもしパパ?」


『あー、沙織? さっきの巨大ロボットの話だけどさー! 夕方のニュース見たらマジで校庭に10メートルのロボ居るじゃん! めっちゃ面白そうだから、公安の機動隊と特殊部隊、全部出動要請しといたわ!!』


「えっ! ホント!? やったぁ! パパありがとー!」

大喜びする沙織の声が、もう他に誰も残っていない教室に響き渡っていた。


 ——そして、翌朝の朝のホームルーム。

「『やっぱり面白そうだから』ってなんだよ!! それ、市民の治安を守る国防の最高責任者の言うことちがうだろ!!」

沙織から昨日のパパとのやり取りを聞かされた伸一が、朝イチから頭を抱えて全力で叫んだ。


 しかし、そんな伸一の絶叫も虚しく——


【ズシン……ズシン……ズシン……ッ!!!!】

突如、校庭から地響きが巻き起こり、校門のレンガ塀が豪快に崩れ落ちた!


 校庭になだれ込んで来たのは、警視庁の大型警備車だけではない。なぜか連動して動いた陸上自衛隊の最新鋭『10式戦車』の車列まで雪崩れ込んできたのだ! 


 ズラリと並んだ漆黒の砲身が一斉にハルカへと向けられる。


「えっ……嘘だろ……!? 一夜明けて戦車まで来ちゃったんだけど!?」

事態はギャグの域を完全に超え、国家レベルのミリタリーパニックへと突入していた。

第4話以降は10月15日から完結まで更新は19時予定です。

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