第26話 美香&沙織の暴走! 「ハルカ様を小さくなんてさせないわ!」
「――なんだって!? ハルカ様が……元のサイズに戻りたがってるだなんて、絶対に阻止しなきゃダメじゃない!!」
放課後の教室で、ハルカの熱狂的信者である美香と沙織の叫び声が響き渡った。
「10メートルじゃないハルカ様なんて、それもう──オムレツの無いオムライスみたいなもんじゃん!!」
「それ、例えになってなくない? ……チキンライスだし……」
「もう!いちいち細かいのよ、沙織は。あ〜、あの圧倒的な神々しさ、スケール感こそがハルカ様の真骨頂なのにねー!」
「そう! 縮んじゃったらハルカ様らしくないし……! うちらの『推し』の尊さを維持するために、全身全力で元のサイズに戻るのを諦めさせなきゃだよね!」
二人の謎の暴走は翌朝、校庭を占拠する形で爆発した。
「ご覧ください! ハルカ様専用・巨大電動リクライニングチェアですー!!」
校庭の真ん中にドカンと鎮座していたのは、建設現場の足場を組んで作られたビル2階相当の特大リクライニングチェア。
ハルカが「ええっ!? 私のために……?」と座ってみると、美香たちがドヤ顔でパンっと手を叩いた。
「フフフ……今日はハルカ様のために、予約3年待ちの伝説のカリスマ美容家をお呼びしました!」
「みなさんボンジュール♡ ワタシは世界中のセレブを虜にする、美の先駆者よ!」
校舎の陰から悠然と現れたのは、派手なローズピンクの作業着を身にまとった巨漢の男――カリスマエステティシャン・マダム・ピエール(オカマ)だった。
「ハーイ! 美しきギガント・ガール! 貴女のそのダイナミックなボディ、アタシのインスピレーションが爆発しまくってるわ〜んッ♡」
「えっ……誰!? っていうか声がめちゃくちゃ低い!?」
ピエールはハルカの顔を見上げるなり、人差し指を天に掲げて叫んだ。
「ダメよ! 全然ダメ! 10メートルの美には、既存のエステ概念なんて生ぬるいわ! 今日はアタシの最新前衛アート・ビューティー施術を施してあげるッ!」
「最初は毛穴の奥の穢れを払うのよ! ダンプカー、カモンッ!」
ピエールが優雅なバレリーナのようなステップを踏むと、バックしてきたダンプカーが荷台を豪快に傾け、ハルカの顔面にトン単位の黒泥を【ドバシャァァァッ!!】とブチまけた!
【ぶふぇぇっーー!?】
「こ、これ……パックっていうか、ただの崖崩れ!! 土砂崩落事故だよ!?」
「静かにしなさいなッ! これが『大地のエネルギーとの一体化』よ! ほら、お肌が叫んでるわ〜♡」
「叫んでるのはハルカの悲鳴だろ!! どこがエステだ、ただの土砂災害じゃねぇか!」
「続いてはお顔の引き締め! 美は痛みの先にあるのよッ!」
ピエールはそう言うと、巨大なロードローラーに跳び乗り、華麗なハンドルさばきでハルカの頬や脚の上をゴロゴロと旋回し始めた!
「あだだだだ! 顔の上を重機関が走ってる! 痛い痛い!?」
「逃げ場はないわッ! アタシのビューティー・コルギを受けるがいいッ!
無駄無駄……、ハッ!──ハリハリハリハリハリハリィィィッ!! むくみも! たるみも! 全部まとめて圧砕よーーーッ♡」
「圧砕って言っちゃったよ!! ……ってか叫び声で一瞬『無駄』って自分でハッキリ言いかけただろ! 小顔にする前に顔の原形がなくなっちゃうだろ!!」
校庭で繰り広げられる「あまりにも前衛的すぎるエステ」と、ノリノリで凄みのある、無駄にスタイリッシュすぎる決めポーズを連発するピエールに、集まっていた生徒たちはドン引きし……、そして次々と──
「ギャハハハ! どんなエステだよ!!」
「前衛的すぎて意味分かんねぇwww」
と腹を抱えて大爆笑!
「おい美香! 沙織! フランスかエジプトか知らねーけど、どこからこんな珍獣連れてきたんだよ! 体育の授業どころか学校壊されるわ!」
伸一の必死のツッコミが響き渡る中、ピエールは「本日の施術代、締めて8500万円(※重機レンタル費込み)になります♡」とウインクを飛ばすのだった。
しかし、伸一の心配も虚しく、美香と沙織・二人の暴走はまだまだ留まることを知らず──
二人は他にも「ハルカ様の素晴らしさを世界に広めるのよ!」とSNSやマスコミに宣伝しまくった結果、事態は学校中、果ては社会現象へと拡大していった。
『速報! 10mの巨大女子高生・ハルカちゃん、奇跡の萌えアイドルデビュー!』
『アニメ化・実写映画化・ハリウッド進出決定!?』
「ハ、ハルた〜ん!! 今日もデカくて尊いよ〜っ!!」
「ハルたん! 僕たちの『オタサーの姫』になってくれぇぇぇ!!」
校門前には、ハルカを「ハルたん」と呼んで崇める校内のオタク男子たちが大挙して押し寄せ、ペンライトを振り回す親衛隊を結成。
ハルカのアクリルスタンドや巨大抱き枕カバーなどのオフィシャルグッズが飛ぶように売れ、校庭は完全にアイドルライブ会場と化していた。
「ハルカをハルたんって呼ぶな気持ち悪い! ……あとアクスタの縮尺が1/1でもデカすぎて玄関に入らんわ!」
伸一の悲痛なツッコミが、熱狂するオタクたちの歓声にかき消されていく。
日の暮れた放課後──
ようやくマスコミや親衛隊が去り、静けさを取り戻した校庭で、美香と沙織は疲れ切った様子で校舎の壁に背中を預けていた。
「ふぅ……ちょっとやりすぎちゃったみたいね」
「うん……。ハルカ様、ちょっと引いてたよね……」
そこへハルカが割って入る。10メートルの身体を丸めて座るハルカは、困ったように苦笑いしながらも、二人を見つめた。
「美香ちゃん、沙織ちゃん……私を喜ばせようとしてくれて、ありがとう。でもね……私、やっぱり元の姿に戻って、みんなと普通に学校生活を送りたくて……」
ハルカの言葉に、美香と沙織は顔を見合わせ、それから少し照れくさそうに笑った。
「……知ってるよ、ハルカ……」
美香はいつもの大げさなトーンを引っ込め、優しい笑顔でハルカを見上げた。
「本当は、10メートルになって寂しいことも、不便なこともたくさんあんでしょ? 私たちが『10メートルのハルカ様がいい』なんて騒いだのは……ハルカがどんな姿になろうが、宇宙人に狙われようが、私たちは絶対にハルカの味方だから……変に落ち込んでほしくなかっただけなのよ」
「そう! 縮もうがデカいままでいようが、ハルカちゃんはハルカちゃんだもん!」
二人のまっすぐな本音に触れ、ハルカの大きな瞳にじわっと涙が浮かんだ。
「ふたりとも……ありがとう……っ!」
ハルカは胸をいっぱいにしながら、心からのあたたかい笑顔を咲かせた。
――だが。
そんな感動的な光景を、少し離れた校舎の陰から静かに見つめている人物がいた。
「あっ、伸一くん!」
伸一の姿に気づいたハルカが、パッと顔を輝かせて駆け寄ってくる。
「見て見て、伸一くん! 美香ちゃんたちがね――」
「……あ、ああ。良かったな」
「え……?」
いつものように軽快なツッコミが返ってくると思っていたハルカは、伸一のどことなく、心ここにあらずな返事にピタリと足を止めた。
「伸一くん……? どうしたの? なんだか元気がないような……」
「……いや。ちょっと今日、体調悪くてさ。ごめん……先帰るわ」
夕闇が迫る校庭で、ハルカは遠ざかっていく伸一の背中を、ただ不安そうに見送ることしかできなかった。




