第25話 アリスの勘違い大爆走! ハルカを元に戻す方法
「ふふふ……ついに、ついに完成したぞ! 10メートル女を元の可憐な女子高生に戻す、世紀の大発明がな!」
放課後の部室棟裏。 自称・天才科学者のアリスは、怪しげなメーターとダイヤルが乱立する巨大な機械を背に、腰に手を当てて高らかに高笑いを決めていた。
「おいアリス……お前の『完成したぞ!』ほど不吉な言葉はこの世にねぇんだよ」
ハルカの傍らで、伸一は盛大なため息をつく。
だがアリスは伸一の呆れ顔など意にも介さず、ドヤ顔で胸を張った。
「失礼だな! 今回の理論は完璧だ! 巨大化した存在を正常化させるため、安全確実に『小さく』していく『アリス式・分子圧縮照射装置』! これをハルカに向けさえすれば――」
「えっ! ほんとに!? 私、元のサイズに戻れるの!?」
目を輝かせるハルカ。
伸一は「おいハルカ、こいつの言うことを鵜呑みにするな」と制止しようとしたが、アリスはすでにレバーを全開で押し下げていた。
「おとなしく浴びるがいい! アリス・ビームッ!!」
【バチバチバチッ!! ズギューーン!!】
機械の先端から放たれた怪光線がハルカの身体を包み込む。
強烈な光が収まったあと、伸一は固唾をのんでハルカを見上げた。
「……ハルカ? 体長は……まったく変わってないぞ?」
「あれ……? でも伸一くん、なんだか頭のてっぺんがすっごく軽くなったような……」
ハルカが首をかしげた瞬間、伸一の目が点になった。
10メートルの巨大な身体のてっぺんに乗っているのは――普通の女子高生サイズ(実物大)の小っちゃな頭。
「……な?」
「どうだ伸一! 物理的容積の削減だ! 完璧に『小さく』してみせたぞ!……頭部を」
「どんなホラーゲームの作画崩壊だよアホ!! どこ小さくしてんだよ! 首から下の10メートルに対して顔のパーツだけ縮尺バグってんだろ! 怖すぎて夜も眠れんわ!」
「うるさいな! 今度こそハルカを小さくする!」
アリスが焦ってダイヤルをガチャガチャと回し、再びレバーを引き抜く!
【ピカッ!! ギューーーン!!】
「……ハルカ、どうだ!? 今度こそしっかり『小さく』してやったぞ!」
伸一が警戒しながら尋ねると、ハルカは、ジト目になって10メートルの巨体をぬ〜っと伸一に近づけてきた。
「……伸一くん。さっき私の頭のことで盛大に笑ったよね……? 私、傷ついた……。一生根に持つから。10メートルの質量で、永遠にネチネチ根に持つからね……」
「こら、アリス!! ……ハルカの心の『器』を小さくしてくれてんじゃねぇよ!!」
「くっ……! 『小さく』の定義が広すぎるからいけないんだ! 今度こそ絶対に『小さく』軽量化する!」
やけくそになったアリスがやけくそでダイヤルを最大値に叩き込む!
【ドガーン!! パチパチパチッ!!】
「うわっ!? おいアリス、今なんか焦げ臭い音がしたぞ! ハルカ、大丈夫か!?」
「……え? 伸一くん……? あれ? なんで伸一くん、私の足元にいるの……?」
「は……?」
「あれ? 私、なんで10メートルもあるの……? あれ? ……あ! 伸一くん! ねえねえ、私ね、元のサイズに戻る方法をアリスちゃんに教えてもらうんだ〜♪」
「……」
「……あれ? 伸一くん、なんで足元にいるの? 私、なんで10メートルあるの……?」
「アリスー!ハルカの記憶容量を小さくしてんじゃねぇーー!! 3秒ごとに記憶初期化されてるだろ! ……ニワトリ以下の脳のキャパシティで10メートルの巨体にウロチョロされるの、マジで怪獣映画級に危険すぎんだよ!」
「あ、アリスちゃん! 私を元のサイズに戻す方法……あれ? アリスちゃん、どうしたの……?」
アリスは機械の横で力尽き、膝を抱えてうずくまり、袖で顔を隠していた。肩が小さく震えている。
「……うぅ……すまない……。ハルカを元に戻すどころか……逆に迷惑かけてしまうなんて……っ」
「……悪ィ。言い過ぎた」
「伸一、私のことはほっといてくれ!」
「アリス……」
「伸一くん、私に話させて」
「ああ、わかった。 けど……どうするんだ?」
正気に戻ったハルカはそっとしゃがみ込み、落ち込むアリスの目の前で優しく微笑んだ。
そして、巨大な人差し指の腹で、アリスの背中をぽんぽんと優しく撫でる。
「アリスちゃん。私のために、一生懸命機械を作ってくれたんだよね?」
「っ……。……当たり前だろ! ハルカがいつまでもその大きさじゃ、学校生活だって大変だし……伸一とだって、普通に手も繋げないじゃないか……!」
アリスは袖で顔を隠したまま、声を震わせた。
頭を抱え、アリスの脳裏によみがえるのは、誰にも言えずにずっと蓋をしてきた記憶だった。
(――昔からそうだ……。私は周囲からよく「面白い」「ムードメーカー」とか言われる一方で、この特異な見た目の幼さのせいで、男からはもちろん、女からも……、誰も私を『年相応』の女の子として見てくれなかった。嫌な気持ちになったあの頃のことを、私は今でも覚えている……)
そしてアリスが思い出すのは、つい先日――伸一の知らない場所で目撃してしまった光景。
(誰もいない夜の校庭の隅で、10メートルのハルカが、一人きりで自分の大きすぎる両手を抱きしめ── 「どうして私は普通じゃないんだろう……伸一くんの隣にも、もう並べないよ……」って、声を殺してうずくまっていたんだ……。 周りに気をつかっていつも笑顔でいるハルカが、誰もいないところであんな顔をしていたのを見たとき……私の昔の自分と重なって、ちょっと嫌な気持ちになったんだ……)
「私もさ……これまでずっと周りの人と違うってだけで、嫌な思いをしてきたから……。ハルカがどれだけ一人で大変か……なんとなく分かったんだよ……! ……なのに、私のせいで、ハルカを逆にガッカリさせて……っ! 私が天才ぶって調子に乗ったから……!」
袖の隙間から、小さく鼻をすする音がした。
伸一は少し口をつぐみ、ハルカは優しい瞳を向けた。
「うん、私はうれしかったよ」
「え……?」 アリスが顔を上げると、ハルカは夜風に髪を揺らしながら、心からの温かい笑顔を向けていた。
「確かに、結果的に失敗しちゃったけどさ……アリスちゃんが私のためにそこまで真剣に考えてくれて、私のためにあんなに落ち込んでくれたこと、私、すっごく嬉しかったの。……それに、私はもう孤独じゃないって思えたんだ。だから……助けようとしてくれて、本当にありがとう、アリスちゃん」
「ハルカ……っ」
ハルカの真っ直ぐで無邪気な優しさに触れ、アリスは顔を真っ赤にしながら、ぷいっと横を向いて袖で乱暴に目元を拭った。
「……フン、感謝なんていらないぞ! 私はただ、自分の理論が正しいと証明したかっただけなのだからな! ……でも、まあ。その……次こそは、絶対完璧なやつを作ってやるからな!」
「うん! 楽しみにしてるね、アリスちゃん♪ ……って、あれ? ねえ伸一くん、なんで私の顔見て驚くの? 」
「あの……アリスさん? ……感動の空気ぶち壊して申し訳ないんですけど……。とりあえずこの不自然に小さいハルカの頭部、いい加減、元に戻してあげてくれません?」
「あ、しまった……。 し、仕方ないな! リセットボタンを押すぞ!」
【ポチッ……シュウゥゥゥ……】
(※ハルカの頭部が元に戻る音)
「あはは! 伸一くんお顔にまた青筋立ってる〜♪」
星空の下、三人のにぎやかな笑い声が静かな学校の夜に溶けていくのだった。




