第24話 膝枕と耳かきで大惨事!? 10mの乙女心は暴走注意!
「……うん。私、もう逃げないよ。伸一くんがそう言ってくれたから……私、もっと女子力を磨いて、伸一くんを癒やしてあげられる理想の女になるね!」
「その気持ちすごく嬉しいよ。けどさ……気を張りすぎるなよ。俺はハルカと背伸びをしない居心地のいい関係でいたいし」
「伸一くん……わかった。ありがとう」
夕闇から夜へと変わる港。二人の間に甘い空気が流れ、サイズ差を超えたロマンチックな雰囲気が最高潮に達する。
「……あ! ねえ伸一くん、私ね、ずっとやってみたかった甘いシチュエーションがあるの」
「ん? なんだよ急に」
「ふふ……膝枕で、耳掃除♡ 伸一くん、いつも頑張ってるから労ってあげたくて……」
「そっか。まあ……お前のその気持ちは素直に嬉しいよ。王道だし、ちょっと憧れるっていうかさ。……よし、じゃあ頼むわ」
伸一がハルカの大きな膝の上に頭を預けてリラックスしていると、竹の耳かきをそっと寄せてくる――
【パキィッ!!】
「……な? 一瞬で木くずになった。……お前、いま爪楊枝折るノリで竹の耳かき砕いたよね? ……もし俺の耳の穴の中でやってたら、今ごろ救急車呼ばれてるところだぞ」
「あちゃーー、ごめん。力入りすぎちゃった! ま、いっか♪ 次、折れないやつね!」
「『ま、いっか』で済む耐久力じゃないんだよ、俺の耳は」
ハルカが指先で適当に摘まんで見せたのは、至って普通のステンレス製耳かきだったのだが──
「あ、それステンレスか。それなら折れる心配はないな。力加減さえ気を付けてくれれば……うん、ハルカを信じるよ。今度こそよろしくな」
伸一が気を取り直して目を閉じると、ハルカがステンレス耳かきを構える――
「えーっと、伸一くんの耳の中……うーん、暗くて全然見えないや! ま、このへんでいっか♪ えいっ♡(大雑把にガリッ)」
「痛っ……! お前今、見えないからって『勘』でほじくったろ! ……暗闇で金属の棒振り回すな! 耳垢取る前に、俺の側頭骨にトンネルが開通するって!」
「え〜? 届いてない? じゃあもっと奥まで……♪」
「奥を目指すな! 探検隊じゃないんだよ! 痛い、マジで痛いから!」
「あ、ごめんごめん! 痛かった? じゃあ、柔らかくて安全なやつにするね♪」
ハルカがポケットからガサゴソと取り出したのは、ごく普通の綿棒。しかし――
「綿棒か! 最初からそれにしとけばよかったんだよ。綿なら痛くないし安心だな。……よし、ハルカ、今度こそ優しく頼むな?」
伸一が安堵の息をつき、ハルカが指先に全神経(?)を集中させて綿棒を寄せる――
「これなら絶対痛くないよ! えいっ♪(大雑把にギューッ)」
【グニャッ!!】
「……綿棒の軸が、くの字どころか、まるでバネみたいにグニャグニャに押し曲がってるぞ! ……それ以前に、お前の丸太みたいな指の腹が俺の顔面に全重力でめり込んでるんだよ。綿棒の柔らかさゼロ。油圧プレス機で顔面潰されてる感覚しか訪れてない」
「あ、指当たってた? てへっ♪ 綿棒もダメかぁ……あ! 道具使わないで、直接触らない画期的なやつがあった!」
「直接触らない……?」
「うん! 最近知ったんだけど『イヤーキャンドル(耳ろうそく)』だよ♪ ……耳の穴に差し込んで火を点ければ、温風で耳垢が取れるんだって!」
「へえ、そんなのあるのか。直接触らないなら、お前の指プレス事故も起きないし……うん、それが一番安全そうだな。色々考えてくれてありがとな。じゃあ今度こそ、よろしく」
伸一が期待を込めて頷くと、ハルカがイヤーキャンドルをセットする。しかし――
「このライター……炎が小さ過ぎかな? 風が強くて、ろうそくになかなか火がつかないよ。……ねえ伸一くん、他のライター持って無いよね?」
「ああ、持ってないけど……」
すると何を思ったか、ハルカは小さなライターの炎越しに、伸一の耳のあたりに顔を近づけて全力で息を吹きかける――
【ボッッ!! ヴォォォォォン!!】
「フッフーッ♪(10m級の肺活量)」
「火炎放射器のつもりかよアホ!! 息の圧力が台風並みで、炎が横に一メートル射出されてるしーー!! 焼き討ちか。本能寺の変でもきっともう少しマシな火の使い方をするって!」
「えっ? ダメ? ちゃんと燃えてるよ?」
「燃えすぎて俺の前髪が焦げてんだよ。撤収。全耳掃除アイテム即刻撤収。……まあ、俺を喜ばせようと色々準備してくれたのは本当に嬉しいし、感謝してるけどさ」
「ごめんね、伸一くん……」
「いいって。別に気にして無いから、そう落ち込むなって。……耳掃除は家帰って自分で綿棒でやるし」
「え〜、ケチ。じゃあおうち帰ったら、私が横でじーっと見ててあげるね♪」
「……全然撤回! やっぱりお前はしばらく落ち込んでろ!」
伸一が呆れ混じりのため息をつくなか、ハルカは「あはは、伸一くんお顔真っ赤〜♪」と呑気に笑うのだった。




