第27話 アリスの励まし「お前は私のライバルだろ!?」
「ねぇ、伸一くん……最近、なんだかよそよそしくない?」
夕暮れの校庭。10メートルの巨体を小さく折りたたむように屈み、ハルカは目の前に立つ伸一の制服の袖を、指先でそっと引いた。
だが伸一は、どこか気まずそうに視線をそらし、「別に、いつも通りだろ」と素っ気なく返す。
「嘘つかないで! ずっと目を合わせてくれないし、私の前から逃げようとしてる……! 何か隠してるんでしょ?」
「隠してねぇよ! ……ってか、そのデカい体で至近距離から覗き込まれると圧がすごいんだよ!」
「ごまかさないでよ! 私のこと、もう面倒くさくなったの!?」
「はあ!? そんなこと一言も言ってねぇだろ!」
お互いの不安と焦りがぶつかり合い、いつもの軽快な掛け合いはどこへやら、二人の間にピリッとした緊張感が走る。
気まずい沈黙の中、ハルカはショックを隠しきれず、大きな瞳をいっぱいに潤ませて俯いてしまった。
「……っもういい! 伸一くんなんか知らない!」
その時だった──
「そこまでだ、10メートル女!!」
【ガラガラガラッ! ドゴォォォン!!】
校庭の砂埃を大げさに巻き上げて突撃してきたのは、車両タイプのシルフィード二号機に乗ったアリスだった。
その荷台には、あまりにも凶悪なサイズの特製パフェが鎮座している。
「アリスちゃん……?」
「なんだよお前、また変なもん持って……」
【ズシンッ!!】とハルカの足元に置かれたのは、カラーコーン並みの高さがある『ハルカ専用・自家製カロリー爆弾巨大パフェ』。
トッピングにはコーンフレーク代わりにバケツ一杯分のポテトチップスと、丸ごとのメロンが突き刺さっていた。
「なんだよそのカロリーの暴力は!?」と呆れる伸一を完全に無視し、アリスは白衣のポケットに手を突っ込んでツンと胸を張った。
「落ち込むな! ハルカ!!」
「え……?」
「まったく、お前がそんな湿気た顔をしてウジウジしてたら……私のライバルとしてのモチベーションに関わるんだよ! 勝負するなら、いつものデカくてあざといお前で来いってんだ!」
アリスのぶっきらぼうで強引すぎる励まし方に、ハルカは思わずぽかんと口を開けた。
無理やりパフェ用のスプーン(※工事用のシャベル並みにデカい)を握らされ、ハルカが戸惑っていると……アリスはバッとそっぽを向き、顔を少し赤くしながらボソボソと早口で語り始めた。
「……か、勘違いするなよ! お前が伸一と喧嘩してようが私には関係ない。……関係ないんだが!」
アリスはグッと小さな拳を握りしめ、溢れ出る想いを振り絞るように言葉を続けた。
「……私はプライベートが制限された特殊な任務ばかりの毎日だった。まともに友達なんて作れなかったし、いつも一人で、誰とも群れてこなかった。……だけど、貴様は違う! 貴様の隣には──いつもあいつ(伸一)がいただろ!?」
「アリスちゃん……」
「10メートルだろうが何だろうが、周囲を巻き込んで、いつもまっすぐ笑ってみせるお前が……私には、眩しくて仕方なかったんだ! だから……! お前がこんなところで、伸一との喧嘩ごときで小さくなるな! 私のライバルなら、もっと胸を張れ……っ!」
それは、プライドの高いアリスにとって、これ以上ないほどの最大級の賛辞であり、不器用な友情の告白だった。
ハルカはその言葉を聞き、潤んでいた瞳から大粒の涙をぽろりとこぼした。
しかし、その顔には先ほどまでの切なさはなく、パッと心が晴れ渡ったような温かい笑顔が浮かんでいた。
「……うん。そうだよね。私、アリスちゃんのライバルだもんね!」
ハルカは巨大なスプーンでパフェを一口すくうと、ふっと優しく息をつき、数歩歩いてポツンと突っ立っている伸一のほうを振り返った。
「……ねえ、伸一くん」
「……なんだよ」
伸一は気まずそうに眉を寄せながらも、今度は逃げずにまっすぐハルカを見上げる。
「さっきは……酷いこと言って拒絶してごめんね。私、伸一くんが離れていっちゃうんじゃないかって……すごく怖かったの。だから、隠しごとなんてしないで、何でも言ってほしい……」
ハルカのまっすぐな眼差しに、伸一はバツが悪そうに頭をポリポリとかき、それから観念したように小さく息を吐いた。
「……俺のほうこそ、本当にごめん、ハルカ。お前が有名人になってから、変に焦っちゃってさ……俺だけ置いてけぼりにされるんじゃないかって、一人で勝手に空回りしてたんだ。……お前にとって俺が特別なのは、分かってたはずなのにさ」
「伸一くん……! うん、仲直りだね♪」
夕暮れの校庭。仲直りした二人の甘い空気がパッと和らいだのを見て、アリスは「フン!」と盛大に鼻を鳴らした。
「まったく、青春ドラマの主人公気取りか! 見ててこっちの胃がやられるぞ! ……ほら、さっさとパフェを食い切れ! 溶けたら私のメンツが潰れるからな!」
「あはは! アリスちゃん、ありがとう! いただきまーす♪」
「おいハルカ、それ一人で食う量じゃねぇだろ。……その……俺にも一口よこせよ」
「あはは、伸一くんもツンデレだ〜。……私と間接キス、したいんだよね?」
「う、うるせーよ! 違ぇわ!」
「ふふ、いいよ。伸一くん、あ〜ん♡」
「あーん……って、ハルカ痛い痛い! 俺の口にそのシャベルみたいなスプーン突き刺そうとするなーーーッ!!」
アリスのツンデレな優しさに背中を押され、ハルカと伸一、二人の間にはいつもの賑やかで甘酸っぱい日常が戻ってきたのだった。




