第22話 私……伸一くんと一緒にいちゃいけないんだ……
「いらっしゃいませーノラ〜。ポイントカードはお持ちですかノラ〜?」
放課後。小腹を満たそうと学校近くのコンビニに入った伸一は、レジ奥から響いた聞き覚えのありすぎる甲高い語尾に、かごを持ったまま凍りついた。
レジ台の上にチョコンと乗っていたのは、緑色のコンビニ制服をダボダボに着た、体長30センチの青いタコ型宇宙人――スカウト隊長のノラだった。
「……お前、なんでコンビニでバーコード打ってんだよッ!?」
「あ、伸一ノラ! しーっ、声が大きいのラ! 今、店長が奥で廃棄のおにぎり数えてるのラ!」
慌てて触角を口元に当てるノラ。名札には『研修中:ノラ』と書かれている。
「『しーっ』じゃねえよ! お前、昨日地球爆破のカウントダウン仕掛けた侵略者だろ!? なんで日本のサービス業に身を投じてんだよ!」
「しかたなかったノラ! レンタカーの延長料金どころか、東京の駐車場代がバカ高くて破産しそうなのラ! テトラを『売地』と書かれた空き地に駐車したら、レッカー移動されそうになったのラ!」
ちょうど「ピピっ」とタイマーが鳴り、奥から店長が出てきて「ノラちゃん、時間だから休憩入っていいよ〜」と声をかける。
ノラは「はーいノラ!」と元気に返事をすると、レジを降りて伸一の肩にしがみついてきた。
コンビニの裏口近くのベンチ──
紙パック牛乳をストローでちゅーちゅー吸いながら、ノラは遠い目をして深々とため息をついた。
「はぁ……東京はとにかく物価が高すぎるのラ。家賃8万円のアパートを借りようとしたら、保証人が地球人じゃないとダメだって断られたのラ。最近は宇宙人移民への風当たりも厳しいのラ……」
「生活感出しすぎだろッ!! どこの上京してきた苦学生の苦労話だよ!」
「笑い事じゃないのラ! 時給1100円で259万秒(30日)働いても、ギガ・デス・バスターのオプション代すら払えないのラ……。今日だってシフト入る前に品川のレンタカー屋から『走行距離オーバーしてますよ』って詰め寄られたのラ……」
「侵略に来た異星人がバイトのシフトとレンタカー代に頭抱えてんじゃねーよ!! 威厳も緊張感もゼロか!!」
伸一のキレキレのツッコミが秋空に虚しく響き渡る中、ノラは「休憩終わるから戻るのラ……」とトボトボとレジへ戻っていった。
「……ふう。あいつと話してると、さすがに不憫に思えてくるな……」
宇宙人に同情しつつ、伸一は校庭の隅にある大きなクスノキの下へと向かった――。
そこには、10メートルの巨体を小さく丸め、膝を抱えて座り込んでいるハルカの姿があった。
「ハルカ、探したぞ。あいつ、なんか勝手にコンビニでバイト始めててさ――」
笑い話として話しかけた伸一だったが、ハルカの雰囲気がいつもと全く違うことに気づき、言葉を飲み込んだ。
ハルカは膝に顔をうずめたまま、静かに肩を震わせていた。
「ハルカ……? どうしたんだ?」
「……伸一くん」
ゆっくりと顔を上げたハルカの大きな瞳には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「私ね……怖いの。中学生のとき……こんな体になってからずっと……」
ぽろぽろと、大粒の涙がハルカの頬を伝い落ちる。
「東京でみんなにこの姿を見てもらったとき、みんな優しく受け入れてくれた。伸一くんも、アリスちゃんも、こうして隣にいてくれた……それがすごく嬉しかったの」
「ハルカ……」
「だけど……私を狙う宇宙人が現れちゃった。ノラさんは大丈夫だと思うけど、きっとこの先も私のせいで、……もっと強力な宇宙人が現れて伸一くんやみんなを危険に遭わせちゃう……!」
ハルカは泣き顔を隠し、そっと伸ばしかけた伸一の手から逃げるように、自分の胸を固く抱きしめた。
「私、伸一くんのことが大好きなのに……大好きなのに、こんな体の私と一緒にいたら伸一くんまで傷ついちゃう。……私、もう伸一くんのそばにいちゃいけないんだと思う……っ」
夕暮れの風が校庭を吹き抜ける。
あまりに切なすぎるハルカの告白に、胸を突かれる伸一。
震える彼女をまっすぐ見据え、伸一は息を呑み――何かを伝えるため、ぐっと口を開きかけた、その時。
『――ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!』
夕闇の迫る校舎の陰から、低く鋭い冷徹な声が、二人の間に突き刺さった。
『ヒロイン気取りで悲劇のヒロインぶって、一人で勝手に身を引くつもりか? ――吐き気がするほど甘いな、ハルカ』
言葉を失った伸一とハルカの視線の先、伸びる長い影の中から、一人の人物が静かに姿を現した――。




