第20話 空が割れた。異星からの機械生命体、来襲
放課後の屋上。夕陽が赤々と校舎を染め上げる中、アリスは両手を胸の前で固く組み、落ち着かない様子で足元をコツコツと鳴らしていた。
「……で、用って何だよアリス。あのクローン発注事件の後始末で、防衛省の上層部に始末書書かされてゲロ吐きそうなのか?」
屋上の扉を開けてやってきた伸一が、ぐったりとしたアリスを見てあきれたように頭をかく。
対するアリスは、こめかみを押さえながら青い顔でぶすっと文句を垂れた。
「――っ、うるさい!私がこんな目にあってるのは誰のせいだと思ってるんだ……っ!」
「お前が勝手に国家予算でやらかした自業自得だろ……。で、話ってなんだよ」
「っ……! その、なんだ。先日は……その……、色々と迷惑をかけたな……って、謝ろうと思って呼んだんだ!」
「お、お前が素直に謝るなんて珍しいな。まあ、反省してるならいいけどよ」
「べ、別に完全に反省したわけじゃない! ただ……その……!」
アリスはモジモジと裾を引っ張りながら、真っ赤になった顔をさらに背けた。
「あの時は……ハルカへの信仰に狂って変なこと言ったが……。だが、その……貴様のことは、別に、その……嫌いじゃない……からな……っ!」
「……は?」
ツンデレの教科書をそのままトレースしたような、アリスの歯切れの悪い告白。
伸一が「ん……?」と目を丸くしたその瞬間――。
『――じゃあアリスちゃんは、伸一くんのこと男の人として好きなの?』
「ああ、そうだ。結婚は先々に考えるとしても、伸一の彼女になりたいな。って……誰だ!?」
突如、真後ろから降ってきた柔らかく甘い質問に、無意識に本音をスラスラと答えてしまったアリス。
驚きのあまり飛び跳ねて振り向くと、そこにはいつの間にか背後に身をかがめて忍び寄っていた(10メートルの巨体なのに足音が一切しない)、ハルカの巨大な顔があった。
「は、ハルカ……っ!? い、いつからそこに……っ!?」
「ふふっ、伸一くんの彼女になりたいんだぁ。じゃあ今度、伸一くんとのデート対決しなきゃね!」
ハルカは10メートルの巨体を屈め、無垢でキラキラとした巨大な瞳でアリスをじっと見つめながら、楽しそうに宣言する。
「ちが、私は決して、最初から伸一のことが大好きで、恋人になって結婚して子供を含めた将来の設計図まで完璧に計算なんてしてないからな、って……ハッ!!」
必死に誤魔化そうとして、さらに余計な具体例まで自らブチまけて墓穴を掘ってしまったアリス。
言わなくてもいい最高レベルの秘め事をすべて自分の口で暴露したことに気づき、顔を真っ赤にして固まった。
あまりの恥ずかしさとプライドの崩壊で、脳内キャパシティが限界を派手に突破する!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」
アリスの耳から特大の蒸気がプシューッと激しく噴出し、そのまま目を見開いた状態でバタリと後ろへ卒倒して気絶した。
「あ、アリスちゃん!? 気絶しちゃった……。やっぱり伸一くんのこと、すっごく大好きなんだねぇ」
ハルカは深く納得したようにうなずき、倒れたアリスを巨大な指先で優しくツンツンとつつく。
「いや、どう見てもお前が自然体で追い詰めすぎて自爆させたんだろ……」
そうもらしながら苦笑する伸一。
だが、そのコミカルな日常のワンシーンは、次の瞬間――文字通り、音を立てて引き裂かれた。
【―――ドォォォォォンッ!!!!!!】
「……え?」
夕暮れの空が、真っ二つに割れた。
空間の裂け目から現れたのは、これまでの軽妙な世界観を完全に置き去りにする、異様なまでに冷徹で無機質な巨大金属球体。
表面には不気味なブルーの光文が明滅し、地表へ向けて何百もの殺戮兵器が展開される。
それは地球の科学力を完全に凌駕した、完全無欠の侵略兵器――異星からの機械生命体『スカウト』の先遣部隊だった。
「なんだあれ……!? 空から、いきなり変なのが……っ!」
パニックに陥る伸一の前で、空に浮かぶ無数の銃口が、一斉にこの場所――10メートルのハルカを正確にロックオンした。
『――ターゲット・ユニット、排除モードに移行。……「プロトタイプ・ゼロ」の生存を確認』
機械的な電子音声が、首都上空をジャックして響き渡る。
「え……?」
空を見上げたハルカの表情から、いつものほんわかした笑顔がスッと消え去った。
彼女の瞳の奥で、かつて隠されていたはずのシステムコードが、赤い警告灯のように鋭く明滅する。
平和な学園生活の裏に隠されていた、ハルカの「過去」と「正体」の謎が、今、最悪の形で幕を開けようとしていた――!




