第18話 美香・沙織の『ハルカ応援団』結成!
大停電の静寂と、爆笑と困惑が混ざり合った独特の空気がビーチを包み込む。
九連敗を喫し、脱ぎ捨てたシルフィードの脇で泥と血と汗にまみれたアリスは、砂浜に両手をついてガクガクと震えていた。
「くっ……バカな……! 我が防衛省の技術と、私の完璧な花嫁計算が……全敗だと……!?」
自身のポンコツぶりに白目をむきかけ、敗北のショックと疲労で打ちひしがれるアリス。
「……アリスちゃん、大丈夫?」
10メートルのハルカが膝をつき、心配そうに巨大な手のひらをそっと差し入れてくる。
「く……触るな! 敗者に情けをかける気か……っ! 私の……私の負けだ……!」
アリスはハルカの手を拒絶するように払い退けると、トボトボと一人でビーチの闇へと去っていった。
「あ、待ってアリスちゃん……!」
「……行かせてやれよ、ハルカ。あいつなりに、本気で勝負に挑んだんだからさ……」
背中を丸めて消えていくアリスの後姿を、伸一は少し複雑な表情で見送るのだった。
――その時だった!
「キャァァァァァァァッ!?? 助けてぇぇぇ!!」
ビーチの端、大停電で真っ暗になったホテルの非常用工事エリアから、悲痛な悲鳴が響き渡る!
「な、なんだ!? 今の声、美香と沙織か!?」
暗闇の奥を見ると、立ち入り禁止の立て札を無視して侵入した美香と沙織が、停電で崩落しかけた重機の鉄骨と大量の資材の崩落に巻き込まれ、下敷きになりかけていた!
「キャーッ! 足が挟まって逃げられない!!」
「嫌ぁーっ! 落ちてくるぅぅ!!」
「あいつら、あんな場所で何やってんだよ!!」
伸一が全力で駆け出すより早く、ハルカが凄まじい速度で動いた。
「ふたりとも、あぶなーい!!」
【ドズゥゥゥン!!】
ハルカは自分の体を盾にして崩れ落ちる巨大な鉄骨と資材を受け止め、ギリギリのところで二人を庇い落としたのだ。
「……っ……ふぅ……ふたりとも、ケガはない……?」
10mの巨体で鉄骨を軽々と受け止め、ハルカは心配そうに優しく二人を見下ろす。
死を覚悟していた美香と沙織は、腰を抜かしたまま絶句していた……。
自分たちはいままで散々二人をいじめてきたのに……。そして今回ルールを破って勝手な行動をしたのに……。
それなのに、全く嫌な顔一つせず命がけで助けてくれたハルカ。美香と沙織の目からボロボロと涙が溢れ出す。
「ハルカ……っ! ごめんなさい……っ! アタシたち、あんた等にいままで散々……っ!」
「なのに……なのに命懸けで……うわぁぁぁん!!」
優しく微笑むハルカの姿に、二人のリミッターが完全に崩壊した。
「決めた……! 今日からアタシたち、ハルカ様の忠実な下僕になる! 『ハルカ様応援団』結成よ!!」
美香は鼻水と涙を盛大に垂らしながら突如ガバッと立ち上がり、狂気に満ちた目をギラつかせた。
「あたし、パパ(理事長)に頼んで、明日から全校生徒に『ハルカ様への毎朝の忠誠の儀式(生贄の捧げ物アリ)』を義務付けるから! もちろん──逆らう奴は全員、理事長権限で即座に親の会社ごと破産させて路頭に迷わせてやるから! ……ってなわけで、沙織ちゃん、例の頼んだよ〜!」
「おっけー美香〜。うちのパパ(警視総監)に電話して、ハルカちゃんのプライベートを守るために沖縄の全ビーチに機動隊と戦車を配備してもらうね〜。……あと、ハルカちゃんが伸一くんに奪われないように、伸一くんを女の子に性転換させて、ハルカちゃんとの記憶を抹消して独房で国家管理するね〜」
沙織はソフトなトーンのまま、とんでもない人権弾圧プランをニコニコとスマホで実況し始めた。
「おい待てお前ら!! 助けられた感動をどこに置き忘れてきたんだよ!! 報いる方法がガチの独裁国家のそれだろ!!」
伸一の命がけのブチギレツッコミが夜のビーチに響き渡る中、……ハルカがふと耳を澄ませ、崩落した工事資材の奥へと視線を向けた。
「……ん? ……あ! アリスちゃん!?」
大停電と鉄骨崩落の混乱の中、さきほど背中を丸めて去っていったはずのアリスが、なんと崩れた瓦礫と土砂の山の下敷きになって埋もれていたのだ。
「え……アリス……!? おい、大丈夫かアリスーっ!?」
瓦礫の隙間から、泥まみれになったアリスの小さな手が力なく覗いている。
ハルカは慌てて巨大な膝をつき、瓦礫の山へと手を伸ばした――!




