第14話 海だ! 水着だ! ハルカの特注水着お披露目!
沖縄の青い海、真っ白な砂浜。
無事に自衛隊の大型輸送艦で到着した見晴ヶ丘高校の生徒たちは、眩しい太陽の下で歓声を上げていた。
「うおーっ! 海だーーーっ!!」
クラスメートたちが一斉に海へ飛び込んでいく中、砂浜の木陰で伸一は言葉を失っていた。
「……アリス。お前、それ……」
「見るな! 見るな伸一! 私に軽蔑の視線を向けるんじゃない!」
そこに立っていたのは、いつもの5メートルパワードスーツ『シルフィード』を脱ぎ捨てた、生の姿のアリスだった。
さすがにハイテクパワードスーツを海水に浸けて錆びさせるわけにはいかず、勇気を出して脱ぎ捨てたらしいのだが――。
防衛省のエリート少尉という厳めしい肩書きとは裏腹に、その素顔はどう見ても小学生にしか見えない不憫すぎる幼女体型。
しかも身に着けているのは、防衛省の支給品だという、フリルやリボンが無駄に付いたどこからどう見ても女児・幼児用の幼女水着。
伸一は気まずそうに目をそらし、必死に口をつぐんだ。
(……いけねぇ。ここで何かツッコんだら、人として終わる気がする……)
「……ツッコめよ!! 何か言えよ伸一ぃぃぃ!!」
伸一からの沈黙に耐えきれず、アリスは顔を真っ赤にして地踏みを踏んだ!
「『お前その年でなんで幼児用みたいな水着着てんだ』とかツッコめ! 気遣いの無言が一番心に刺さんだよ! いっそひと想いに殺してくれぇぇぇ……っ!!」
「無茶言うな! 俺だって命は惜しいんだよ!」
アリスが砂浜で体育座りをし、伸一から顔を背けたその時――。
【ギィィィ……ガガガガガ……!】
浜から少し離れた大型船用の深水ドック(※三島重工の造船所)の巨大なシャッターが、重々しい機械音とともに上がっていった。
「し、伸一くん……! 恥ずかしいよぉ……っ」
ドックの中から、モジモジと頬を染めた10メートルのハルカが姿を現した。
彼女が身に包んでいるのは、防衛省の依頼で三島重工の造船ドックにて、巨大フェリー用の防水シート素材を使って緊急縫製された超巨大セパレート水着だった。
「――っ!?」
それを見た伸一は、思わず目を見張った。
(おいおい……水着っていうか、もはやビルの壁面ラッピング広告か、巨大船の帆だろこれ……! 生地の縫い目がもやい結び並みに太ぇよ!)
口から出かかった強烈なツッコミ。
……だが、伸一はハッと息を呑み、己の頭を軽く叩いた。
(……馬鹿か、俺は……)
脳裏に浮かぶのは、これまでのハルカとの日々だった。
10メートル・2000トンという常識外れの身体になってしまい、周囲から驚かれ、時には浮いてしまう中で、ハルカはいつも「伸一くんの普通の女の子でいたい」と健気に笑っていた。
本当は、みんなと同じように可愛い水着を着て、普通に海で楽しみたかったはずなのだ。
それを笑うことなんて、絶対にできるわけがなかった。
「……伸一くん……?」
不安そうに爪楊枝ほどのサイズの指先をこねこねと弄くり回すハルカ。
10メートルの大きな瞳が、今にも不安で潤みそうになっている。
伸一はふうと小さく息を吐くと、照れくさそうに首の後ろを掻きながら、まっすぐに10メートルのハルカを見上げた。
「……関係ねえよ」
「え……?」
「その……三島重工の特注だろうが何だろうが関係ねぇよ。ハルカはハルカだろ」
伸一は顔を少し赤くしながら、ぼそりと、だがはっきりと呟いた。
「……すごく似合ってるぜ。……可愛いと思う」
「〜〜〜〜〜〜っっっ///」
ハルカの顔が一瞬で真っ赤に染まった。
大げさに叫んだり、ドタバタとはしゃいだりはしない。
ハルカは10メートルの巨体をほんの少し小さく丸めるようにして、両手で真っ赤になった両頬をそっと包み込んだ。
そして、胸の奥から溢れ出る愛おしさを噛み締めるように、恥ずかしそうに、でも最高に幸せそうな笑みを浮かべた。
「……ありがとう、伸一くん……♡」
そのピュアでキュンとする空気に、砂浜の時間が一瞬止まったかのようだった。
「……チッ、甘ったるい雰囲気を出しおって……」
アリスが悔しそうに口を尖らせた、その時――!
【ゴゴゴゴゴゴ……!!!!】
突如、沖縄の青い海が不気味にうねり始めた。
海底から響く地鳴りのような轟音とともに、沖合の水平線が盛り上がり、巨大な津波がもの凄い勢いで海岸へと押し寄せてきた!
『――ウィーン、ウィーン! 緊急警報。沖合で海底地震が発生。巨大津波が海岸に接近中! 直ちに高台へ避難してください!――』
「なっ……なんだこれ……!?」
「うそだろ、津波だ……! 逃げろ――ッ!!」
海水浴を楽しんでいたクラスメートたちがパニックを起こし、絶叫しながら砂浜を駆け上がる。
しかし、津波のスピードはあまりに速く、逃げ遅れた生徒たちが恐怖で立ちすくんだ。
「みんな……っ!」
ハルカは迷わなかった。
彼女は誰に言われるでもなく、仲間の危機を察知すると、2000トンの巨体を一歩も引かず、押し寄せる巨大な津波のほうへと真っ直ぐに向き直った。
「ハルカ……お前、まさか……!」
伸一が息を呑んで見上げる。
10メートルの身なりをしたハルカが、迫り来る何メートルもの高い壁のような濁流を前に、仁王立ちで両腕を大きく広げた。
「ハルカ……貴様、正気か!? そんなの、いくら2000トンあろうと押し流されるぞ!?」
アリスが青ざめた顔で絶叫する。
――10メートルの少女は、この狂気的な大津波の直撃を耐え切れるのか?
ただの高校生である彼女に、地球の自然の猛威を止める術などあるのか……!?
荒狂う波濤の目の前で、ハルカの背中が静かに、そして圧倒的な存在感を放つ。




