第12話 10メートルなんて大ざっぱで不便!アリスのドヤ顔とハルカの天然無双
「――というわけで伸一くん。放課後の実習課題は頼みましたよ。ハルカさんとアリス少尉が学校を全壊させないよう、しっかり仕切ってくださいね」
「えっ、俺ですか!? 先生、丸投げすぎません!?」
グラウンドに用意された巨大な特設調理台の前。
担任の先生からあっさりと二人(10m&5m)の監督責任を押し付けられた伸一は、頭を抱えて溜め息をついた。
「はぁ……まあいいや。ハルカ、アリス。今からやるのは家庭科の特別課題、『リンゴの皮むき実習』だ。いいか、二人とも絶対に暴れるなよ?」
伸一が腕を組んで仕切り始めると、5メートルのパワードスーツに身を包んだアリスは、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「クックック……伸一とやら、この私が暴れるなどと失礼な。むしろついに私の真の真価を見せる時が来たようだな! ……見ろ《H-00》! 10メートルなどという無駄に肥大化した巨体で、こんな繊細な作業ができるわけがない!」
アリスはパワードスーツの右腕を展開し、先端から鋭利な高振動マイクロナイフをチャキッと出現させた。
「このパワードスーツ『シルフィード』の微細駆動モーターはミリ単位の精密作業を可能とする!
対して……あいつの10メートルの大ざっぱな巨体では、リンゴなど一瞬で潰れて赤く染まった果汁の海になるのがオチよ!」
「なっ……!私だって伸一くんにおいしいリンゴ食べさせてあげたくて、一生懸命勉強(勉強会)したんだから!」
「ふん、言っておくが私は防衛省の訓練で『ミリ単位の爆発物処理』をクリアしたエリートだ。……おい審判の伸一! この勝負、より緊張感を持たせるために特別な条件を追加するぞ!」
「えっ、条件……?」
「そうだ! 力を制御できずにリンゴを潰して果汁の海(汁)にしてしまった方は、明日、勝った方が決めた屈辱的で恥ずかしすぎる罰ゲームを実行することにする!」
「自分からリスク跳ね上げてどうするんだよ……」
「フッ、安心しろ。不器用な10メートルが果汁の海にして恥に悶え泣く姿を拝むための仕掛けだ! 伸一、私の圧倒的な技量をとくと目に焼き付けるがいい!」
アリスはドヤ顔を浮かべ、調理台の上に置かれたリンゴ(アリスサイズで野球ボール程度)へナイフを滑らせた。
【ジジジジジ……削……削……】
……1分経過。
アリスは眉間にシワを寄せ、パワードスーツの照準センサーを赤く発光させながら、死ぬほど慎重に、数ミリ単位でナイフを動かしている。
【ジジ……ジジジ……】
……3分経過。
未だにリンゴの皮は先端の数センチしか剥けていない。
「……あの、アリス少尉。確かにめちゃくちゃ精密なんですけど……時間かかりすぎじゃありません……?」
「うるさい! いま集中しているんだ!!」
「へい、すみません」
伸一が速攻で引き下がったその横で――
【シャシャシャシャッ……!!】
「あ、できた〜♪ 伸一くん、あーんして?」
「――は?」
ようやくリンゴを一周分だけ剥き終え、満を持してドヤ顔で振り返ったアリスは、そこに広がっていた光景に言葉を失った。
10メートルのハルカが、自身の2000トンの巨体を支える巨大な3本の指先は、比べると爪楊枝ほどの長さにしか見えない果物ナイフをつまんでいた。
そしてハルカの目の前には――皮が一枚の紙のように透き通り、一切の無駄なく寸分の狂いもなく剥かれた芸術的なリンゴがすでに完成していた。
それどころか、ハルカの超精密サーボモーターと伸一への愛の集中力により、リンゴの表面には『伸一くんのために私がんばるね♡』というミリ単位の彫刻まで施されている。
「な……なん……だと……!? 10メートルの駆動系で……分子レベルの筆圧制御だと……!? バカな、出力0.000001%以下の極限抑制など、システムがオーバーヒートするはず――」
「えっとね、私そんな難しいことは全然わかんないけど……伸一くんのことを考えると、なんだか身体の奥からすごーく熱いものが溢れてきて、髪が金色に光り出して未知のパワーが湧いてくるの……!!」
「愛の力でスーパーな戦闘民族に覚醒すなーーーっ!!!???」
アリスは頭を抱えて叫んだ。
「伸一くん、食べて! ハルカが剥いたリンゴ!」
「お、おう……ハルカあんがと。うん、すごく美味い!」
「えへへ、伸一くに褒められちゃった〜♡」
ハルカが10メートルの巨体をキュンキュンと揺らすたびに、地響きが激しく発生し、アリスの5メートルスーツが【ガタガタガタッ!】と物理的に揺れる。
「くっ……ぐぬぬぬ……! 認めるものか! 愛などという不確定な数値で科学の粋を超えられてたまるかぁぁぁ!!」
アリスは悔しさで顔を真っ赤にし、対抗してリンゴを彫刻しようとした瞬間――
【ぐしゃっ】
力みすぎて高振動ナイフが不発を起こし、リンゴを完食レベルで粉砕してしまった。
「ああああっ!? 私のリンゴが汁にぃぃぃーーーっ!?」
静まり返る校庭。ぐしゃぐしゃになったリンゴの果汁(汁)を見つめるアリスの顔から、サーッと血の気が引いていく。
「あ、アリス……お前、さっき自分で『果汁の海にした方は罰ゲーム』って……」
「ち、ちちち違う!! これは機器の初期不良であって!! ノーカン! 今の罰ゲームはノーカンだからなぁぁぁーーーっ!!」
「はいはい言いました〜! アリスちゃんの負け〜! 明日の罰ゲーム楽しみにしてるねっ♪」
「いやだぁぁぁぁーーーーっ!!」
翌日の休み時間・保健室前の廊下──
「な、なあ……ハルカ? アリスにほんとにやらせるのか、これ……!? 今の保健の先生、彼氏にフラれて相当機嫌が悪いって噂だぞ!?」
罰ゲームの当事者でない伸一すら動揺する中……。
5メートルの巨体を小さく丸め、保健室のドアの前でガクガク震えるアリス。
「大丈夫だって。あんなふうに噂されてるだけで……保健室の先生も鬼じゃないんだから」
ハルカが明るく背中を押す。
「ちょっと待て! 貴様の『大丈夫』は私を地獄に突き落とす予感しかせん!!」
【ガララッ……!】
ハルカが通路向かいの窓越しに容赦なく保健室のドアを開けた。
「あっ……!?」
保健室特有の消毒液の匂いの中、カルテをめくる保健の先生の背中が見える。
「せ……先生……あの……その……」
アリスは5メートルの巨体を無理やりかがめ、ガタガタ震えながら絞り出した。
「こ……恋の病って……診てもらえますか……!?」
すると……保健の先生は手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は完全に据わっており、親の仇を見るような殺気が宿っていた。
「……はっ?」
【チッ!】
静かな保健室に、絶望的なまでに重い舌打ちが響き渡る。
「で……熱は? 具体的にどこがどう病気なの?」
「……ね、熱はないです……ただ……胸のマイクロリアクターが苦しくて……」
【ドンッ!!!】
保健室の先生は猛烈な勢いでカルテを机に叩きつけた!
「そんな糞くだんねー理由で、あんたはそのデカい鉄くず着て保健室に来たのか!? ここは病人の場所だ! 二度とそんなふざけたことを言うな!!」
「ひいいいいいっ!? すいません!すいません!ごめんなさい!
生まれてきて──ごめんなさいいいいっ!!」
5メートルのパワードスーツが【ガタガタガタッ!】と恐怖で激しく振動し、廊下にいた伸一と校舎外のハルカの足元まで地響きが伝わってきた。
重く、笑いもない。ただただシュールで恐ろしい沈黙。
「いっそ……このまま私を殺してくれ……」
あまりのトラウマに青ざめたアリスは、体育座りで頭を抱えた。
中庭から見ていたハルカは涙が出そうなほど笑いを堪えながら、「よく頑張ったね、アリスちゃん」とそっと肩を叩く。
伸一は手帳に『機嫌の悪い保健の先生はマジで鬼より怖い』と淡々と書き込んでいた。




