第10話 解答用紙はB0サイズ!? 夏休みを賭けた死闘と宙から降ってきた少女
「――いいですか、ハルカさん。あなたの指先は、一間違えれば校舎の壁を易々とぶち抜く兵器です。どうか、力を抜いて……羽毛をなでるように……!」
「あ、はい……! 先生、私、がんばります……!」
期末テスト当日。
校庭に特設された『ハルカ専用試験会場』には、異様な緊張感が漂っていた。
目の前に広がるのは、教職員たちが総出で繋ぎ合わせた超特大のB0サイズ解答用紙。
そしてハルカ(10メートル)が巨大な3本の指でつまんでいるのは、折れやすい芯をギリギリまで補強した特注の「角材レベルの鉛筆」だ。
校舎内では他の生徒たちが自分の期末テストと必死に戦っており、ハルカを応援する余裕など誰も見せていない。
鉛筆の走る音だけが校舎全体に響くなか、ハルカの試験監督を務める先生たちだけが、汗を握りしめて校庭のハルカを見守っていた。
(頑張れよ……ハルカ。試験問題は二人でおさらいした問題がほぼそのまま出てる……! 落ち着けばお前にも必ず解けるからな……!)
3階の教室で自身のテストに向き合いながらも、ハルカの健闘を心の中で祈る伸一。
ハルカの瞳の奥で、メカニカルなセンサーが青く発光する。
【出力調整:0.00001%に設定。出力リミッター、極限開放――】
【ピシッ……ピシッ……】
ハルカの巨大な指先が、見たこともないほど繊細に、プルプルと震えながらB0用紙の上を滑る。
2000トンの巨体が発する重低音の駆動音(※ウィーン……ギギギ……)が静かな校庭に響く中、B0用紙に正確に文字が刻まれていく。
(ハルカ、落ち着け! 焦ると力が伝わって用紙が破れるぞ。深呼吸して、一文字ずつ丁寧にだ!)
放課後、何度も勉強に付き合ってくれた伸一の声が脳裏に蘇る。
(伸一くん……! 私、赤点回避して、夏休みに絶対伸一くんと海に行くんだからっ……!)
「素晴らしいですハルカさん! 素晴らしいペースです! いよいよ、最後の問10――この問題は試験前の授業で試験に必ず出すからと言いましたよね?
この一問だけで配分が100点満点中30点。まさに赤点回避のスペシャル問題です!!」
「あ、ありがとうございます。この問題、バッチリ予習してました、先生……! 最後の問題……『x』の値を算出して……よし、これを書けば……!」
ハルカは汗(※冷却オイル)を頬に伝わせながら、最後の一文字に魂を込めて鉛筆を走らせようとした――まさに、その瞬間!!
【ゴゴゴゴゴゴ……ズギャアアアアンッ!!】
「あれは……な、なんですか、空から……!?」
突如、大気圏を突き破る凄まじい衝撃波と爆音とともに、ハルカの真横――まさに書いていたB0サイズ答案用紙のすぐ側に、何かが凄まじい勢いで落ちてきた!
【ドガァァァァンッ!!】
「きゃあぁぁぁーーーっ!?」
校庭全体を激震が襲い、もうもうと立ち込める煙と熱風。
そして――その激しい落下の熱量と火花により、ハルカが極限の集中力でここまで書き上げてきたB0サイズの答案用紙が一瞬で激しく燃え上がり、見る見るうちに真っ黒な炭へと変わり果ててしまった!!
「あ……あぁ……私の……命がけで解いた答案用紙が……炭に……!?」
最後の一問を書き終える直前で炭と化した用紙を前に、ハルカは絶望のあまり真っ白になって固まってしまう。
「何事だ!?」
「校庭に何が落ちてきた!?」
テスト中だった全校生徒が一斉に窓枠に押し寄せ、校庭を見下ろした。
クレーターの煙が晴れると、そこには黒煙を上げる小型の謎の宇宙船。
やがて──プシューと音を立ててハッチが開き、白銀の宇宙服を着た一人の小柄な少女が降り立った。
直後――少女の宇宙服が機械的な金属音を立てて緻密に組み替わり、一瞬にして重厚かつ洗練された全長五メートルほどの巨大な高機動パワードスーツへと変形・装着される!
「クックック……ついに追い詰めたぞ……」
パワードスーツの肩スピーカーから、無駄にエコーをギンギンに効かせたキザなボイスが響き渡る。
少女は昼前なのにわざわざ太陽を背に受け、片手を顔の前で斜めに掲げる完璧な厨二病ポーズをバシッと決めた。
(……なんだあいつ? 演出に命かけすぎててイタくないか……?)
全校生徒がドン引きで見守る中、少女は完全に自分に酔いきった様子で告げた。
「――見つけたぞ。プロトタイプ《H-00》。……我が名は銀翼の執――」
【ポロッ……バサバサバサッ……】
まさにキメ台詞の真っ最中。
パワードスーツの腰元に付いていたチャックの全開になったポーチから、何かがこぼれ落ち、静まり返った校庭の地面を転がった。
【バサッ】と風に煽られて開き、校庭の中央に滑り出していったのは――明らかに手作りの同人誌。表紙にはトゲトゲ頭の主人公と目隠しをした白髪の男がドカンと描かれ、デカデカと『大丈夫、僕ちん最強だから♡ 〜呪われた愛の術式〜』という意味深なタイトルが躍っていた。
「「「「………………」」」」
全校生徒、教師、そして伸一の視線が、校庭の中央にパカッと開いたまま転がる“あまりにも衝撃的な自作BL同人誌”に集中する。
静寂が校庭を包み込んだ。
「あ………………」
パワードスーツの光輝くバイザーが『カシャッ』と自動解除され、中の少女の素顔が露わになる。
少女は地面に転がる自作原稿を二度見し――自分が地球のサブカル文化やBLにドハマりした挙句、ポーチのチャックを閉め忘れていたことに気づいた瞬間、顔面を真っ赤にし、次の瞬間にはサーッと血の気が引いて完全に青ざめた。
「ち、ちちち違う!! これは地球の精神汚染兵器を解析・調査するための極秘情報収集サンプルであって……ッ!!」
震える声で必死に弁明しようとする少女。
しかし、その横でハルカが涙目で仁王立ちになった。
「ちょっとぉぉぉ!! アンタがそんなオタク丸出しの自作小説落としてモジモジしてるせいで、私のテストが……炭になっちゃったじゃないですかぁぁぁーーーーっ!!」
重厚なパワードスーツをまとった謎の刺客の「恥ずかしさによる絶叫」と、赤点確定によるハルカの「怒りと絶望の悲鳴」が校庭に重なり合い、物語はカオスすぎる新たな波乱の幕開けを迎えるのだった――!




