表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

私の願いは

レイが壊れてしまう――

ミオは直感でそう思った。


膝をつき、立ち上がれないレイに向かって、盾座の星喰い(デヴォア)の腕が振り下ろされた。


「レイ!!」


ミオの悲鳴が飛ぶ。

ガキンッという音が鳴り、鳴った方を見ると星喰い(デヴォア)の腕を転星体のハルとユウゴが受け止めていた。


「くっそ~、硬ったい!」


ハルの声が響く。


毒をまとった針が何度も打ち込まれているのに、盾座の星喰い(デヴォア)の装甲はびくともしない。表面にかすかな傷が走るだけで、すぐに再生するように光が流れていく。


「正面からは貫けない!」


ユウゴが即座に判断を下す。


「ハル!天宮を連れて一旦下がれ!!」


「了っ解!レイくん、ちょっと下がるよ!」


「おいおい、俺が逃がすと思ってんのかぁ~?」


レイの肩を持つハルに対し、カラス座の転星体が黒い羽片を飛ばす。


「危ない!均衡固定(バランス・フィールド)!!」


ヒナが障壁を展開するが、少しずつ削られていく。


「やっばい……割られる……!」


「……ッ、アアァァァ!!」


その時、盾座の星喰い(デヴォア)が腕を振るい、ユウゴの抑えを振り切った。


「ハル!天宮!避けろ!!」


「っ!」


星喰いの腕がハルとレイに当たり、2人が後方へふっ飛ぶ。


「レイ!!久我さん!!」


「うっそ……ボロボロじゃん……」


ミオの声が響く。ヒナが息をのむ。

レイを見ると、その身体が崩れかけていた。


右腕だけではない。全身が崩れかけている。

纏った星座の鎧はところどころ砕け、異形のレイ自身も全身に亀裂が入り、星空のような黒いもやがもくもくと流れ出ている。


黒いもやは、ただ漏れているわけじゃない。

脈打っている。呼吸するみたいに、膨らんで、縮んで。

そのたびに、レイの輪郭が揺れる。


「っ……ぐ……」


レイが呻く。その声に合わせるように、もやが膨れ上がる。

体の内側から、押し出されているみたいだった。


皮膚の下に、本来あるはずの“中身”がない。

そこにあるのは、夜空。底のない、暗闇。

その中で、星みたいな光が瞬いている。


綺麗だと思った。ほんの一瞬だけ。

でもすぐに、それが恐ろしいものだと分かる。


「……俺が――終わらせてやるんだ……」


「……あいつは、守ろうとしてるだけだろ……」


レイが、かすれた声で言う。


「だったら……止めてやらないと……」


「それが……できるのは、俺だけだ……」


「バカ!無理だって!!」


息も絶え絶えになりながらも、それでもレイは立ち上がろうとする。

ハルはレイを止めようとするが、ダメージが蓄積しているのか上手く止められない。


「……放してくれ。俺が止めてやらないと――」


「君、これ以上やったら本当に死ぬよ!?一旦休んで!!」


ハルの忠告を聞きながらも、レイは立ち上がることをやめない。

しかし、その最中もレイの身体にある亀裂は少しづつ広がっていった。


人の形が、保てなくなっている。

このままじゃ――レイが死んでしまう。


「レイやめて!死んじゃうよ!!」


「……ミオは下がってろ」


ミオの叫びを聞いてもレイの歩みは止まらない。


「でも……!」


「いいから……!」


レイの怒鳴り声がショッピングモールに響く。

しかし、その声さえ不安定だった。


身体が保てていない。

踏ん張っている足元が、わずかに崩れる。

黒い星空のようなもやが、足元に溢れた。


それでも――レイは星喰い(デヴォア)に向かって足を進める。


「チッ……ハル!カラス座(コルウス)を抑えろ!……ヒナ!白峰のカバーに入れ!!」


「……おっけー!」


「分かった……!」


ユウゴの指示で、ハルとヒナがそれぞれ動き出す。


「またお前かよぉ~俺はあいつをいたぶりたいんだけどなぁ!」


「レイくんは取り込み中だからね~……俺が相手してやるよ」


カラス座の男が煽るが、ハルは逃がそうとしない。


「ミオちゃん!大丈夫?」


「私は平気……!ヒナさんこそ大丈夫??」


「正直大丈夫じゃないかも……でも、まだ動けるよ……」


ヒナは笑おうとして、うまくできていなかった。

その視線は、レイへ向いている。ミオも見る。


その瞬間、レイが壁際に吹き飛ばされた。

起き上がろうとするが、身体が崩れていく。


「っ……!」


レイの体から、黒いもやが一気に噴き出した。

星空の夜がそのまま溢れたみたいに。


体の輪郭が、揺らぐ。消えそうになる。


「レイ!!」


ミオは叫び、レイの方へ駆け寄ろうとする。


「来るな……!」


レイが叫ぶ。


「でも!」


「お前も死にたいのか……!」


その声は、怒りじゃない。必死だ。

崩れながらも。守ろうとしている。


ミオは動けなかった。足が止まる。

何もできない。分かってる。


自分はまだ――願いが、定まっていない。

だから――


「ミオちゃん」


ヒナがミオを呼びかける。


「行って?」


「え……?」


「レイくんのところ」


「でも私……何も、できない……」


ヒナは少しだけ目を細めた。


「できるかどうかじゃないでしょ?」


「……」


「したいかどうかだよ」


何もできない。

その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


嘘だ。本当は、違う。


“できない”んじゃない。

“やろうとしていない”だけだ。


「……っ」


今までのことを思い出す。


星座適合試験で適性があると言われて、少しだけ嬉しかったこと。


でも――いざとなったら、何もできなかった。


レイが初めてあの姿になった夜も、自分は何も出来なかった。


『ミオ!』


レイに腕を引かれた後も、私はただ立ち尽くしているだけだった。


レイと一緒に星象庁の任務に同行した時も、力もないのに駆け出して。

結局レイに助けてもらった。迷惑をかけてばっかりだ。


今日だって、レイを助ければいいのか、お客さんを助ければいいのか迷って、足が動かなかった。


怖くて、失敗が怖くて。

逆に誰かの迷惑になったらどうしようって。

ずっと考えてばかりだった。


ユウゴは迷わない。ハルは踏み込む。

ヒナは傷つくのを承知で前に出る。

なのに、自分は。


「……ずっと、逃げてた」


ぽつりと呟く。

ヒナが何も言わずに、そばにいる。

責めない。でも、それが逆に苦しい。


「私……ちゃんと考えたこと、なかった」


“願い”って言われても。

大きなものじゃないといけない気がしていた。


誰かを救うとか。世界を変えるとか。

そんなのじゃないと、ダメなんだって。


でも――違う。

今、目の前にあるもの。それだけでいい。


レイが苦しんでいる。壊れそうになっている。

それを見て、何も思わないわけがない。


「……助けたい」


それは、小さな言葉だった。

それでも――確かに自分の中から出てきたものだった。


「支えたい」


もっと、はっきりする。


「一人にしたくない」


それだけでいい。

それだけで――十分だ。


レイが再び立ち上がろうとする。

しかし、身体がふらつく。


身体が、さらに崩れる。黒い星空が、肩から溢れている。

輪郭が薄れる。このままじゃ。

本当に――消える。


「……っ」


ミオは拳を握る。

怖い。失敗したら。

意味がなかったら。


でも――ここで動かなかったら。

私は、後悔すると思った。


「私……!」


声が震える。でも、止まらない。


「君を――レイを、助けたい!!」


はっきり言った。


「支えたい!一人にしたくない!」


胸が熱い。何かが、動く。


「強くなくていい……でも!」


言葉が溢れる。


「私も一緒に背負いたい!!」


「転星――水瓶座(アクエリアス)


その瞬間、光が広がり、音が消えた。

戦場のはずなのに、静かだった。

水の中にいるみたいに。


すべてが、ゆっくりになる。

光が流れる。ミオの足元から。


広がって。空気を満たす。冷たくて、でも優しい。

触れたものを拒まない。包み込むような感覚。


「……これが」


分かる。これが、自分の力。

攻撃じゃない。壊すものじゃない。


繋ぐ力。支える力。

崩れないように、留める力。


「私の――」


言葉が、自然に出る。もう迷わない。


「願い……!」


「……っ!」


ユウゴが息を呑む。ハルが笑う。


「……良い、願いだねぇ」


光が、ミオの体に集まる。

形になる。流れる。整う。


ミオは、レイの隣へ一歩を踏み出した。


「レイ、もう一人で無茶しないで」


手を伸ばす。

光が流れ、レイを包む。


「な……」


レイの身体に触れる。

黒い星空に、光が入り込む。


黒いもやが押し戻されていく。

崩れていた輪郭が、少し戻る。

完全じゃない。


でも――消えない。


「……これ」


癒すだけじゃない。支える。

壊れないように。繋ぎ止める。


「レイ!」


ミオは叫ぶ。


「前に出て!私が支える!」


レイの目が揺れる。迷う。


「この人、鎮めてあげよう……!」


それで、十分だった。

レイが立つ。体はまだ崩れている。

でも、止まっている。保たれている。


「……ミオ、行くぞ」


レイは低く言う。


「ハル!ヒナ!5人でこっちを先にケリをつける!」


「はいは~い!行きますよっと!!」


「分かった……!」


ハルとヒナも星喰い(デヴォア)に向かっていった。


「……ちょっと待てよぉ!俺を、無視すんじゃねぇよ!!」


「うるっさいなぁ~」

「……お前に構ってる暇ないんだよ」

「何度も何度も鬱陶しい……」


「「「お前は引っ込んどけ!!!」」」


「……うぅ!!」


カラス座の男が攻撃を仕掛けようとするが、レイ・ハル・ユウゴの反撃を受け、壁際の柱に飛ばされていった。


ハルが星喰い(デヴォア)の横から近づいていく。

毒針を装甲へ打ち込む。


「……ウゥゥ!!」


「もう一撃だ――星砕圧(ステラ・クラッシュ)!!」


「ウ、ウガアァ……!!」


ハルとユウゴの連携に、星喰い(デヴォア)は押されていく。


「天宮、いけ!!」


ユウゴの声を聞き、レイが踏み込む。

その背中に、ミオは力を送る。


レイの亀裂から流れる黒いもやがレイの中へ戻っていく。

レイを形取る輪郭が明確になっていった。


レイが加速する。

黒い星空が、尾を引く。


拳が振り抜かれ、星喰い(デヴォア)の装甲にぶつかる。

鎧が砕け、ヒビが走る。


ヒビ割れた装甲の中には、星空のような黒い空間が広がっている。

その奥に光を放つものが1つ――盾座の星珠だった。


レイは星喰い(デヴォア)の胸に空いた穴に手を伸ばす。

そして、星珠を引き抜いた。


「……もう無理しなくていい」


レイが低く呟く。


「……あんたは、ちゃんと守れてた」


星喰い(デヴォア)が子どもの方を向いて小さく頷く。

凶悪に見えた星喰い(デヴォア)の顔が、安堵したような顔に見えた。


「アリガ、トウ……オツカレサマ、デシ、タ……」


星喰い(デヴォア)が最後にそう呟いた。

そして星喰い(デヴォア)の身体は崩れ、装甲が塵となっていった。


「……終わった、か」


「まだ終わってねぇよぉ!!!」


柱に飛ばされたカラス座の男が叫ぶ。


「あ~そうだった。残業があるんだった~」


「ハル、お前の毒でさっさと終わらせてくれ」


ハルとユウゴが面倒くさそうにカラス座(コルウス)の方を見る。


「お前らさ、本当イライラさせるの上手いよなぁ~?」


「チームワークってやつかぁ?俺にはないもの見せつけられると本当奪いたくなるんだよ!!」


カラス座の男は、羽を広げ、こちらへ飛んだ。

いや――飛ぼうとした。


「あ、れ?身体が重いぞぉ……?」


「こいつも星喰い(デヴォア)化か!?」


カラス座の男の異変に、レイは戸惑いを隠せない。


「レイくん、違う違う~。これは、俺が毒を盛ったんだよ」


「毒を、盛っただとぉ……?そんなこと、いつ……」


「2回目の対面の時だったかなぁ~。仕込み毒(セット・ポイズン)、死なない程度の毒をね?」


打ち込んだ毒の説明をしたハルは、レイに向かってニヤリと笑った。


「ふざ、けんなよぉ……あの人から“貰った力”を使い切ってない、のにぃ……」


その言葉に、空気が一瞬止まる。


「あの人……?」


ミオが小さく呟く。

その言葉に、ユウゴの目が細くなる。

レイも、わずかに眉をひそめた。


――今のは、聞き逃せない。


「誰から貰った。言え」


男は、答えない。ただ、肩をすくめる。


「国家の犬に、言うわけないだろ……バーカ」


そう言って男は、転星体から生身に戻り、気を失った。

その身体は、もう動かなかった。


「……あの時の転星者と一緒ってこと?」


ヒナが呟いた。それには誰も答えない。


「……橘だ、違法転星者を捕縛した。護送車をよこしてくれ」


ユウゴが星象庁に連絡している声だけがショッピングモールに響く。


「……今度こそ終わった、かな?あれ、身体が……」


ミオがそういった途端、力が抜けたように沈んでいく。


「おっとっと~レイくん、ミオちゃん支えてあげて」


ハルが受け止めたミオの身体をレイに受け渡す。


「ミオ、大丈夫か?」


「う、うん……」


ミオが顔を上げるとそこにはレイがいた。

生身の身体に戻ったレイは、頬に小さなヒビが入っている。


でもさっきより、ずっといい。


レイがミオを見て、目が合った。

言葉に迷っている顔。

ミオは笑う。


「……無茶しすぎ」


レイが目を逸らす。


「……お前もな」


「私は、間に合ったから」


レイが小さく頷く。


「……そうかもな」


それだけ。

でも、十分。間に合った。


もう、迷わない。願いが分かったから。

強さじゃない。特別でもない。


ただ。この人を――


ミオは胸に手を当てる。

まだ、温かい。


「私の願いは」


小さく呟く。


「あなたを、支えること」


――それが、私の願い。

言葉にした瞬間、不思議と胸の奥が軽くなった。


夜風が吹く。

黒い星空の残滓と青白い光が混ざって、静かに空へ溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!


今回は、ミオが「願い」を見つける回でした。

ミオの「願い」は――レイを支えること。

しかし、またしても現れた不穏な気配。


次回もぜひお付き合いいただけると嬉しいです。


もし少しでも面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけるととても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ